■ 高城重躬とスタインウェイ (2007.6.29)







いつものようにセコハン・ショップの片隅にあるCDコーナーを漁っていて、たまたま遭遇したのが、「高城重躬喜寿記念アルバム」という、私家版のCDである。何という偶然!
TACD-1と番号がふってあるので他にもまだあるようだが。


いま高城重躬の名前を言ってもピンとくる人は少ないだろう。かつてはオーディオの神様とあがめられたものだ。家を建て直してコンクリート・ホーンを作ったとか、超高性能の磁石を手に入れてスピーカーを鳴らしたとか。ウルトラ・マニアの憧れであった。

またピアノのスタインウェイに特別の思い入れを持っていたことでも知られる。ついには退職金をはたいて、自宅にコンサート・グランドを入れるまでになったのだから。





氏が亡くなったのは1999年。享年87歳。
生前の様子を彷彿とさせる氏のリスニング・ルーム(スタジオとも)を訪問したのは2001年であった。

常々自著のなかで自宅録音には格別の興趣があると述べていたのだが、それをCDの形で残したようである。高城重躬が自ら録音した音が聞けるなんて興味がつきない。
録音は自宅(高城スタジオ)で行われた(1988/8)。使用機材はライナーに詳しく書かれているが、マイクはサンケンのCU-41(コンデンサー型)、ソニーのPCM-F1を使用したデジタル録音である。

アルバムは、ソプラノ独唱とピアノ独奏とに大きく二つに構成されている。
はじめは奥様である高城淑子さんのソプラノ独唱。ピアノ伴奏は金行登代子さん。
ブラームスの歌曲が7曲、おわりに有名な子守歌が収められている。
こちらは自然な落ち着いたバランスの録音。適度の残響感をもってソプラノが中央に浮かびあがる。
ピアノは控えめである。

つづいて高城重躬が自らピアノを弾いての独奏曲である。
こちらの録音はすごい。ボリュームを上げるとまさに眼前に等身大のピアノが出現する。
ダイナミック・レンジも格別である。

高音がきらめくように鳴り響く。スタインウェイも最高のコンディションではなかったのでは。
ジーンと鳴り響くのはピアノ線の共振音か。低音は豪壮にすら響く。
ほとんど残響がない。わずかに演奏にともなう雑音も聞こえる。ゴトゴトかすかにいうのはピアノのアクションの動きだろうか。椅子のきしみ音とかも。そこでピアノが弾かれているという存在感がいやでも増す。

ドビュッシーの《沈める寺》が圧倒的だ。
かすかな導入部から、スケール感たっぷりに寺院が姿を現してくる。
演奏もゆったりとしたてらいのないもの。大家の風格があると言ってもいいのではないか。
スタインウェイに寄せる思い入れの深さが伝わってくる。

ほかに、ラヴェル《水の戯れ》とか、ファリャ《火祭りの踊り》などが収められている。
いずれもオーディオ効果を満喫できる曲目だ。


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