■ ビジネス文書のライフサイクル 検索を有効にすること (2005.6.27)

小説をはじめとする、いわゆる文芸作品は長い生命を保つものである。『源氏物語』にしても『枕草子』にしても誕生してから千年を優に越している。さらに古代ギリシャの哲学者、プラトン(BC427年)とかソクラテス(BC470年)の著作であれば、二千年を越して読み継がれている。

一方、非文芸作品、いわゆる実用文書はどうなのだろう。現代であれば、ビジネス文書とか、仕事文書とか、技術文書とか、言われるものだ。あの「ロゼッタ・ストーン」にしても、18世紀末にナポレオン軍によって掘り出されたものだが、ヒエログリフを解読した内容は紀元前196年、当時のエジプト王プトレマイオス5世への賛辞であるという。「ロゼッタ・ストーン」を文芸作品とは言わないだろう。強いて分類すればビジネス文書であろう。すでに「ロゼッタ・ストーン」自身のビジネス文書としての役割は、現代では失われている。ビジネス文書の生命は、それが誕生したとき、その目的や役割を果たした瞬間に終わるようである。

しかし、このビジネス文書にしても短いながらも「ライフサイクル」を持っているのではないか。ライフサイクルは、大きくは、3つのフェーズに区分されるだろう。第一は作成直後の初期フェーズと称するもの。文書が作成され実用に供される段階である。さらにその後に、もうひとつのフェーズとして保管段階がある。最終フェーズは、文書の廃棄である。

世に溢れる文章術――ビジネス文書の書き方――を謳うたぐいの本にしても、あまりにも文書の作成段階にのみにしか目を注いでいないのではないか。実は、文書のライフサイクルを考えるとき、全体時間のうち保管のフェーズが占める比率は高いのである。もっと保管段階での効率的活用を文書作成の時点から注目しなければいけないのだ。ビジネス文書でも、定型文書とくに公的書類であれば、保管期限も10年20年と法律で明確に定められている。文書名も法律に準拠してきっちりと決まっている。あとから探すにしても、比較的容易である。


ところがビジネスの現場で日々に生まれては、消えてゆく「非定型の文書」はどうなるか。たとえば、顧客との打合せの記録とか、プロジェクトの進捗管理表とか、すぐには捨てられないメモのたぐいが、机の周りに充満しているはずだ。いつか処理しよう、整理しようとそのままファイリングしているのがかなりあるはずだ。パソコンのハードディスクもかなり占有している。


いつか活用の機会にそなえて、どこかに保管されている文書が数多くある。したがって次の機会に効果的に活用されるためには、うまく検索の手づるに引っかからなければいけない。さもないと、永遠に再利用の機会が失われてしまうのである。あたら貴重な情報がそのまま闇のブラックホールに吸い込まれる感がある。だから、ビジネス文書は、書く瞬間から、いつかの検索に機会に備えておく必要があるのだ。手で検索しやすいように――ページをパラパラとめくって目的の情報を容易に見つけ出せることだ。検索ツールを利用するにしても、うまくキーワードにマッチするように工夫しておくことが必要だろう。

最も検索頻度が高いものは、経験から言っても「日付」である。次位は固有名詞だろうか、人の名前とか、企業の名前、プロジェクト名称、等々。だから、日付の記入されていないビジネス文書は、まったく役に立たないと言える。固有名詞は、正確に書いておくことだ。あとから検索ツールでひろうためにも。新日鉄ではなくて新日鐵ではないか、富士フィルムではなくて富士フイルムではないかな。きちんと正確な固有名詞を記入しておくことだ。

紙の文書であれば、A4(縦置き/ポートレイト)のとき、右肩に「日付」を置くことだろう。パラパラと文書をめくって検索が容易なのが右肩なのは明らかである。A4(横置き)であれば、普通のA4のバインダーでは頭部が綴じ込み側になるので、キーワードが目について一番検索が容易なのは、ページの最下段となる。したがって横置き書類のページ下段の情報(フッター)の活用が必須となるのである。

ビジネス文書の保管は、情報を効果的に検索できなければ役に立たない。検索された文書は、再利用され新しい情報として生き返ることもあるし、今日の情報を補強するデータとして利用されることもある。


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