Ⅲ 文書の設計:三段構成を考える


1.設計図を最初に描く
 ◇設計は3ステップ
  ・全体イメージをまとめる
  ・材料を集める
  ・構成:使う順序を綿密に計算する

 2.構成を考える
 ◇三段構成が基本:序論・本論・結論
 ◇本論は3タイプ:記録型・説明型・証明型

 3.段落で組み立てる
 ◇段落:あるひとつの考えを述べる (ブロック)
     おおよそ200字、3~5文

 




1. 設計図を最初に描く

先述した5つの基本ルールは、文書作成の全フェーズにわたって通奏低音のように鳴り響き常に適用できるものである。冒頭案内を第1ルールとして挙げたが、これは文書の冒頭でまず案内図を提示しようというもの。この案内図は読み手に対してまっ先に提示されるものであり、文書全体の性格を決定づける重要な役割を果たす。

案内図は文章全体の見取り図でもある。設計図と言い換えてもよいだろう。技術文書は情報を正確に、過不足無く、誤解されることなく相手に伝えることが要求される。仕事を動かす結果につなげることだ。まさに、家を建てるのと同じように、設計図を最初に描いて、情報の見取り図を書くこと、すなわち文書の設計が要求される。

清水幾太郎の『私の文章作法』を読むと、文書の設計について大きな示唆を得ることができる。
文章というのは一種の建築物だと考えています。大きな論文はビルディングのようなもの、小さな文章は交番のようなもので、文章が建築物であるならば、それを作るには、どうしても、設計図がなければなりません。
第一に、文章を書き始める前に、完成後の姿というか、イメージというか、それが心に浮かんでいなければなりません。
第二に、どんな建築物でも、いろいろな材料が必要で、これを事前にすべて用意しておかねばなりません。「すべての文章は証明である」と言われるように、いろいろな材料を用いて自分の主張の正しいことを証明するのが文章というものなのです。
第三に、材料を実際に使う場合の順序を決定しておかねばなりません。どの材料をどの段階で使うかについて、綿密な計算をしておかねばなりません。
以上のような諸点を書きとめたノートや紙片を「設計図」と呼んでいるのです。

清水幾太郎の主張は文章を建築物と考えて設計せよということ。設計は3ステップに分けられるという。①全体イメージをまとめること、②材料を集めること、そして③使う順序を綿密に計算すること(文書の構成)である。
文書の構成(③)については章を分けて詳述する。


(1)全体イメージをまとめる
設計の第一歩として、全体イメージをまとめることが必要である。文書としてのテーマを明確にすること。また相手を誰にするのか読み手を想定しなければならない。文書の体裁も目的に応じて考える必要があるだろう。

【テーマを明確にすること】
この文書で実現すべき仕事=テーマは何なのか。単なる記録・報告・説明なのか。あるいは相手を説得することなのか。学会に提出する論文なのか、新しく開発したワープロの操作マニュアルを書くことなのか、といったことである。
【読み手を想定すること】
この文書の読み手は誰なのか、そのレベル(内容理解力)は高いのか低いのか。不特定多数の人に読んでもらうのであれば、専門家を対象としたものとは、文書の書き方は全く違ってくる。誰を相手にするのか読み手を想定することが必要だ。読み手を漠然と捕らえていては、しっかりした情報伝達を行うこと――仕事を動かすこと――はできない。


【文書の体裁を考えること】
簡単な1枚の報告書か、それとも10数ページの論文とするのか。電子メールで送信しても良いのか、あるいはきちんと印刷する必要があるのか。技術文書の記述体裁は、最適なものを選択すること。不適切な体裁では仕事の成果を十分に得られないこともある。

日常的な仕事と、そこで要求される特性を挙げてみよう。
・エレベータの定期点検を行う ……点検項目に漏れがないこと
・野球の試合内容を記録する ……次回の対戦相手を分析できること
・自転車のパンクを修理する ……あせっている状況でも手順を間違えないこと
・複数の薬を服用する ……食前・食後など飲み合わせを間違えない
・試験を採点して成績表をつける ……点数の高い順から並べて前回と比較する
・一家そろっての夏休み旅行を計画する ……家族バラバラの休みをお互いに調整すること
・市場動向を調べて販売戦略を練る ……事実と提案戦略にはっきり分けること
・来週までに引っ越しを完了させる ……複数の段取りをつなげて手際よく終えること

このような特性を考慮して、仕事を確実に遂行するために、技術文書の体裁を考える必要がある。体裁としては、文を連ねる場合や箇条書きによるもの、チェックリスト形式とか表形式などが考えられる。それぞれに要求される特性を満足するように情報を記述して、正確に間違いなく仕事が実行されることが必要である。


  <様々な体裁とその特徴>

記述体裁  特徴  具体例 
文章形式  ・逐次的な表現
・箇条書きの利用 
・仕様書
・マニュアル 
チェックリスト形式  ・作業抜けを防止できる
・繰り返し利用できる 
・点検表
・アポロ13号の例 
マトリクス形式  ・相互の関連を把握できる
・複数の要因を整理できる 
・テスト条件の一覧
・薬の服用 
表形式  ・全体の外観・網羅性の管理に適する
・重要度/優先順位などの並べ替え可 
・進捗管理表
・スコアブック 
時間軸形式  ・時間的な経過と作業を示す
・操作手順の明示 
・アローダイヤグラム
・操作手順書 




(2)材料を集める

全体のイメージージが明確になれば、次はテーマにそって材料を集めることである。可能な限り、できるだけ大量のデータ(材料)を集めることだ。ものの本によれば、アウトプットとして文書に利用できるのは、インプット(集めた)の材料のうちで、せいぜいが1割であるという。10倍のデータを集める努力が必要だという(100倍という人もいる!)。

集めた材料を論点に従って整理してまとめることになる。材料が特別に大量になった場合や問題点が複雑で多岐にわたるときは、例えばKJ法(コラムを参照)などを使って整理するのも効果的である。

上長から「小学校のパソコンの普及状況について報告せよ」というテーマが与えられたとする。報告の目的は、米国と比較して市場の広がりを調べることだろうか。あるいは国内向けのパッケージ開発計画を提案すること等が考えられる。

文書の全体イメージとしては、社長に向けた(社長を読み手に想定した)、パッケージ製品の開発企画書といったものになるだろうか。材料を集めることは、図書館で文献をあさるとか、近くの小学校に調査に行くことになろう。言うまでもなく、インターネットが情報収集の強力なツールである。

文書をまとめるための全体労力に比べると、材料集めが占める労力の割合は80%前後と言われる。素材さえあればともかく書くことはできる。可能な限り材料を集めることが大切であり、質よりもまずは量を確保することだ。

様々なルートから集めた材料を、テーマに結びつくように何らかの形でまとめる必要がある。集めたばかりの材料をそのまま文書とすることはできない。荒削りでもいいから大雑把な姿に、とりあえずまとめることが必要である。

集めた材料のひとつ一つには、何らかの形で時間データが含まれているはずである、まず材料を時系列で並べ直してみよう。時間の単位は短いものでは日になるかもしれないし、長ければ年単位だろうか。時系列に並べることによって、今までバラバラであった材料がひとつの流れとなって、おおよそのイメージを形成し、あるメッセージを生み出すはずである。

時系列に並べる場合に大事なことは、時間軸の幅を一定にすること。材料が多いからといって特定の時間軸を伸ばしたりしてはいけない。また逆に縮めてもいけない。その期間に情報が集中していること自身が情報なのである。



2.構成を考える

文書設計の第1ステップとして、全体イメージをまとめ材料を集めた。この後、これらの材料を使う順序を綿密に計算し文書としてまとめること――文書の構成――が必要となる。

(1) 三段構成を採用する
文書の構成を考える場合、基本は三段構成――序論・本論・結論――である。序・破・急とか、首・胴・尾と言う場合もある。また、小規模の文書では、序論を省略し、本論と結論のみの二段構成も多い。

三段構成では、直線的なすっきりした構成にして、文書全体を明確に3つのグループに分けること。①序論/前置き/全体概要、②続いて本論、そして③まとめ/結論、という形である。
せっかちな上司に報告書を提出するような場合は、結論を文書の冒頭に置いて文書をまとめる必要があるだろう。この最初に結論を知らせるという構成法は、せっかちな現代のビジネスマナーには適しているだろう。

文書は起承転結で構成すること、とは耳にタコができるほど聞かされた言葉である。起承転結のうち「転」の役割は、「ところで、話変わって」である。「転」は、技術文書=仕事の文書では冗長であり焦点をぼやかすことになる。「転」はいらない、むしろ害悪である。真っ正面から、直球で遊び球なしの3球で三振を取る気持ちが大切である。

「転」に、別の視点から考え直すという役割を持たせる場合がある。そのときも、いったん三段構成で組み上げてから、別の観点を加える、と考えたい。


<文書の構成:「転」はいらない>
① ② ③
<三段構成>

 序論/背景/概要/要約 … 見出し/リード文が代替することもある  本論


… 本論には3種類の型がある
→ 記録型・説明型・証明型  結論 … 先頭に置く場合もある


<例文:三段構成>
(見出し) システム短期開発のカギは人

(序論) コンシューマ向け電子商取引システムの開発事例を取材する機会があった。開発期間はどれも1年以内であり、3カ月で業務サイトを立ち上げた事例もあった。これらの事例では、必ずしもパッケージ製品や最新技術を駆使しているわけではない。既存のCOBOLプログラムを再利用して開発期間を短縮した例もあった。

(本論) プロジェクトを成功に導いたカギは製品・技術よりも人であった。従来の開発方式では間に合わないという問題意識から、必要な機能を厳しく絞り込む、既存資産を徹底的に再利用する、などの決断を下し実行したマネージャたちの手腕だった。ベンダーは次々と新製品、新技術を繰り出してくる。だがシステム開発プロジェクトにおいて、製品・技術という要素は、決定的な役割を担っているわけではない。

(結論) 同じ製品・技術を使っても、頓挫するプロジェクトもあれば成功するプロジェクトもある。トラブルの原因となるのも困難を解決するのも、結局はプロジェクトに参画する“人”なのである。


【本論には3種類の型がある】
三段構成のなかで本論は、文書の性格や目的に従って、複数の型――記録型・説明型・証明型――を考えることができる。もちろん、これらの混在型もあり得る。

記録型が適用されるのは、文字通り議事録のような場合である。説明型は、Windows Vistaのセキュリティはこうなっています、といったシステムのメカニズムを説明するような場合に有用である。また証明型は、読み手を説得する場合に要求されるだろう。


<本論構成の型>

型  目的  ポイント  文書例 
記録型
(叙事) 
・事実をありのままに述べる
・記録する
・報告する 
事実経過に従って、適切な順序に並べること  議事録
報告書
案内図
設計書 
説明型
(説明) 
・相手によくわかるように述べる
・解説する 
適切な順序に並べること
・時系列、大→小 など
・箇条書きも考えられる 
説明書
マニュアル 
証明型
(論証) 
・事の正否を論理に基づいて明らかにする
・ある事柄・判断・学説などが正しいこと、真実であることを、証拠を挙げて明らかにする 
・事実と結果、原因と対策、提案と効果など。因果関係を明確にして構成すること
・帰納法の採用 
提案書
企画書
論文 


(注) 証明の手段として、一般的には帰納法と演繹法がある。実用文としての技術文書では、はじめに結論(事実)を提示する帰納法が採用される。

帰納法:個々の具体的な事実から共通点を探り、そこから一般的な原理や法則を導き出すこと。

演繹法:①一般的な前提から経験にたよらずに論理によって個別の結論を導き出す。(三段論法)・すべての人間は死ぬ(大前提)
          ・アリストテレスは人間である(小前提)
          ・よってアリストテレスは死ぬ(結論)
    ②一つの事柄から他の事柄へおしひろげて述べること。


(2) 本論をまとめる
本論のまとめ方には2つの方法論――トップダウン方式とボトムアップ方式――を考えることができる。
トップダウン方式は、すでに文書の体系(目次など)が決まっていて、後はその体系に従って文章をまとめればよい、といった場合に利用できる。ボトムアップ方式は、データ(材料)は集まったものの、どう料理すればよいのか全く見当がつかないときに利用できるだろう。

 両方式の特徴をまとめると次のようになる。

方式  適用条件  特徴 
トップダウン

3×3法 
・目次が既に体系化されている
・結論の方向が想定できる 
・比較的短時間でまとめることができる
・誰がまとめても一定の品質を保てる 
ボトムアップ

KK法 
・多種多様なデータをまとめる
・結論の想定が難しい
・ブレーンストーミングなどの手順が必要 
・KJ法などのデータ処理ノウハウが必要
・データを網羅的に扱うことができる
 


本テキストでは、トップダウン/ボトムアップ方式のそれぞれの代表として3×3法とKK法を紹介しよう。いずれも筆者(金沢)の名付けた方式であり、KK法はKJ法には遙かに及ばないという意味である。


【3×3法の提案】
トップダウンで文書をまとめる構成法として、3×3(さんさん)法を提案しよう。
この方式は、常に全体を見渡してバランスを取ることができるので、想定される構成に従って全体をまとめるのに効果的である。

<3を基本に水平・垂直分割する>
3×3法では、文書の構成=設計図を描く段階で、あらゆる局面に3分割を応用する。序論・本論・結論あるいは結論・理由・反論といった具合である。初めに水平に3分割したのであれば、次にこのテーマを今度は観点を90度変えて垂直に3分割して考える。3×3のマトリクスを作るといった方がよいだろう。例えば、序論であれば、これを問題提起ととらえて、過去に発生した事故内容・現状の問題点・将来への課題と、3段階で展開できる。

3つに分割して考えることは、網羅性をもたらす。つまり、考え抜けや、漏れがなくなる、という効果がある。目の前のものをとにかく3つのポケットに入れるのであるから、入れ忘れなんてあり得ないし、分類の区分が単純化されてはっきりする。
もちろん、何でも硬直的に3つに分割しろ、ということではない。対象によっては必然的に5つになる場合もあり得る。3分割を少なくとも次の展開のスタート点として考えるのである。

<すき間がないこと、重ならないこと ――分割の基本>
ある課題を例えば3つのテーマに分割して論じる場合、それぞれのテーマを合わせて課題のすべてを網羅すること、さらに個々のテーマがお互いに重ならないことが重要である。バランス良く、それぞれのテーマが課題を抜けがないようにカバーすることによって、課題を全体的にとらえることができると同時に、テーマを均等に論じることができる。

テーマを選定した後は、これらのテーマがカバーする部分をチェックすること。
・テーマが全体をもれなくカバーしているか
・テーマが重複してカバーしていないか

課題の内容や大きさによっては、テーマの数が3つでは足りないときもあるし、もちろん2つで十分なときもある。

①バランス良 ②すき間あり ③重複あり

①テーマが全体をバランス良くカバーしている
・日本人の食生活は朝食、昼食、夕食によって支えられている

②テーマのカバーする部分に抜けがある (あるいは偏っている)
・日本の食生活の中心は、米と味噌、それに大根である

③テーマのカバーする部分に重複がある
・日本人のみそ汁の具は、ネギとか、野菜とか、豆腐である


<箇条書きにも適用できる>
「抜けがないこと、重ならないこと」(分割の基本)は、箇条書きで項目を列挙するときにも適用できるルールである。


<適用方法>

例えば論文を書く場合。まず一目で見渡せるぐらいの大きさの紙を用意する(A3が適当か)。そしていきなり3×3の表を作ってしまう。各欄のバランスは真ん中の本論に最も大きなスペースを与える。前後は2・2・6程度の配分が適当であろう。行の見出しは、序論・本論・結論と並べてもよい。

序 論  本 論  結 論 
序論1  本論1←←←←←←←←←←  結論1 
序論2  本論2←←←←←←←←←←  結論2 
序論3  本論3←←←←←←←←←←  結論3 



<結論は3つにまとまるか? ――仮説を設定する>
3×3法では、まず結論をトップダウンで分解し、そこから本論にさかのぼってまとめるというのが主旨である。まず「結論」――「仮説」とも言える――を考える。この論文で結論として何を言うのかを真っ先に考えて、それを文章化するのである。結論は3つぐらいで構成されると思われる。結論を最初から考えるのは強引かもしれない。研究論文にしても、材料集めから始まって、論点を整理してようやく結論が最後に出てくるものであるから。

<3分割を繰り返して本論を展開 ――マトリクスの活用>
3つの結論に対応させて、次に本論を埋めて議論を展開する。結論に対応し本論も3つに分かれる。結論にいたるそれぞれの道すじを、今まで集めた材料で補強する。

このマトリクスを参照しながら論文を執筆する。規定の目次に合わせたり、数値データを挿入したり、周辺を再調査したり、反論を付け加えたりするのである。マトリクスであるから、アウトライン全体の流れや、縦横のバランス――論理のつながり具合などを全体的に評価・判断することができる。

本論を書いている途中で結論の矛盾が露呈するかもしれない。あるいは最初に考えた結論が不十分な場合もある。このときは、この表の上で別のアイデアを並べて、本論や序論とのつながりをチェックするのである。KJ法の操作を表を使ってやることもある。

この3×3方式は、論文だけでなくマニュアル、提案書などすべての技術文書に適用できるだろう。もちろんパソコンを活用すれば、この3×3法をもっとスマートに展開できる。


【3×3法の適用例】

次の例は、「システム開発のトラブル要因」の分析に、3×3法を適用した場合である。


システム開発のトラブル要因

管理フェーズ  トラブル要因  トラブル防止策 
■基本設計  見積の失敗(規模、難易度、費用)
業務知識の不足 
段階的見積の実施
顧客要求事項の正確な把握 
  性能要件の未達
データ量が予想以上に膨大 
性能前提条件の有限化
量が質を変えることの確認 
  未知・未経験分野の開発
過去の開発経験を活用していない 
実績差異を検証しデータベースに蓄積
動機的原因に遡って原因究明と防止策 
■仕様変更  契約時にあいまい性が残る
エンドユーザの要求が後から来る 
仕様変更は不可避であることの認識
仕様凍結日を定めて守る 
  ほっておくとシステムは膨張する
仕様変更費用が認められない 
仕様膨張に歯止めをかける技術
あらかじめ予算化をお願いしておく 
  パッケージの品質の悪さに足を取られた
カスタマイズ部分が大きくなりすぎた 
あらかじめ社内の使用実績を確認する
パッケージ仕様の範囲内に抑える 
■プロジェクト管理  あまりにも楽観的で潜在リスクに無関心
オープンシステムで問題点が拡散した 
計画時点でのリスク回避戦略の策定
工程線表は管理者自ら作成する
  他部署との連動工程を見逃してしまった
エンドユーザテストが最終工程で遅れた 
重点イベントと結合検査の組み込み
戦略的テスト計画を作成する 
  外注に任せっぱなしであった
受け入れ検査をさぼり品質不良を見逃した 
発注仕様と検収条件の明確化
中間工程での成果物の納入



 BOOK 『発想法』 KJ法の活用―― 多様な材料からアイデアを創出する―― 
KJ法は、集団により問題解決を図る手法であり、アイデアを創り出す方法として誕生した。観察した複雑多様なデータを、「データそれ自体に語らしめつつ、いかにして啓発的にまとめたらよいか」という課題から生まれた。何を問題にするかという主題をはっきりさせることが第一であり、ブレーンストーミングが出発点である。

KJ法のユニークさは、個人の頭の中で行われていたプロセスを意識の外に出して、手操作による物理的動作に変えたことである。「頭の中であれこれ考える」というプロセスを、さまざまな紙片をあちらこちらに動かすという物理的運動に変えてしまった。

【ブレーンストーミングとは】
米国のオズボーンが提案した、問題解決のために新しい発想アイデアを創り出す手法。①他人の意見の批判をしない ②自由奔放に意見を述べる ③できるだけ多量のアイデアを出す ④結合、などを統合したものである。他人の意見から触発されて、他人と自分の意見を結合してゆく。次いでそこに列挙されたアイデアがよいアイデアかどうかシラミつぶしに試してゆく手法である。

【KJ法の進め方】
①ブレーンストーミングによって、意見をできるだけ吐き出す。新しいアイデア、問題解決のアイデアを出すことに集中する。質は問わない。できるだけ大量の材料/データを集めること

②発言のエッセンスを片端から紙片に記録する。それぞれの発言の内容をひと区切りの文章に圧縮し、「1行見出し」にして紙片に書く。過度に抽象化しすぎないこと。土の香りをなるべく伝える。

③記録された紙片群を拡げてグループ編成を行う。親近感を覚える紙片同士が目についたら、「この紙片とあの紙きれの内容はおなじだ」というのを1カ所に集める。圧縮化して表現できる1行見出しを発見する。それを書いて表札とする。グループ編成によって、いくつもの中チーム、さらに大チームを作る。

④グループ編成した材料に基づいて、図解にもってゆく。図解に基づいてさらに文章化に移行する。図解の利点はひと目で全体構造がわかること。

◆『発想法』川喜田二郎著、中公新書、1967
 





【KK法の提案】

KJ法とは、東京工業大学名誉教授 川喜田二郎がデータをまとめる際に考案した手法である。創造的問題解決に効果があるとされる。多くの断片的なデータを統合して、創造的なアイデアを生み出したり、問題解決の糸口を探り出す手法である。本テキストで提案するKK法は、KJ法の簡略版である。

<適用方法>
まずはブレーンストーミングを行い、次にそれらの結果をグルーピングするという段取りである(KJ法の詳細は別掲のコラムを参照)。ブレーンストーミングは本来グループで行うものであるが、KK法では個人の行う作業になるだろう。

①机上にメモ用紙あるいは名刺サイズの紙片/カードをたくさん用意すること。まずブレーンストーミングの要領で、思いつく限りのアイデアをひねり出す。質よりも量。なるべく多くのアイデアやテーマを出すことが大切だ。
②これらを一つひとつ拾い出して、1件1葉の要領でメモ用紙や紙片に書き付ける。ここでたくさんの紙片が集まるだろう。
③これらの紙片を机の上に拡げてカードを手操作で様々に並べ替えながら、関連のあるものをグループ分けする。グループが構成されたら、配下のカードの複数のアイデアを統合するように、新しいアイデアに名前(キーワード)を附ける。KJ法ではこの段階を、同じ「土の香り」を持ったもの同士を集めると言っている。紙片一つひとつの声に耳を傾けること。複数のアイデアが一つに統合されるわけだ。この段取りをくり返して、最終的には1枚の図にまとめる。
④最後に、この図を元にして、文章を書き下ろすのである。

あくまでも、小さな一つのアイデアから、下から上に向かって、次のアイデアを発展させ統合する手法である。最初に分類体系を頭に入れておいて、その体系に従って紙片をグループ分けするのではない、ということに注意しよう。

数多くの紙片をグループの階層で統合し、すべてを一枚の図に整理できると、記入済みの紙片がすべて生かされて,一つひとつが全体図の中で自己主張したことになる。多種多様な意見を吸収し、思いがけない発想につながることもある。

このKK法には次のような応用例が考えられる。
・新しいマニュアルの構成/目次を考えるとき
・製品開発のテーマを絞り込むとき
・事故原因を究明し再発防止策を練り上げるとき
・ユーザ業務を効率化するためのプロポーザルをつくるとき


 KK法の利用結果は例えばこんな様子である。

インターネットで映画舘を調べたい
プリンタが動かないようである
ワープロの終了方法が分からない
家計簿をつけようと考えているのだが 
アプリケーションの操作   パソコン導入ガイド 
プリンタにうまく写真が印刷できない
デジカメの写真を文書に取り込みたい
どうも時間がかかりすぎる時がある
Vistaでは簡単にできるそうだ 
画像データを扱う方法  パソコン導入ガイド 



<立花隆の意見> (『「知」のソフトウェア』から)
KJ法のユニークなところは、これまで個々人の頭の中ですすめられていた意識内のプロセスを意識の外に出して一種の物理的操作に変えてしまったことにある。「頭の中であれこれとりとめもなく考える」というプロセスを、さまざまの概念を記した紙片をあちらこちらに動かしたり、こちらに動かしたりという物理的運動に変える。意識の中で行われる無形の作業を物理的作業に置きかえると、能率がガタ落ちする。

われわれ凡人はとても立花隆には及ばない。パソコンなどの力を借りてKJ法をうまく現代風にアレンジしてKK法を活用しよう。


 新聞記事の特徴

限られた紙面で多くの情報を伝えるために、新聞記事は独特の様式を生み出している。技術文書の書き方として参考にすべき点も多いが、新聞記事の表現形式や文体から無意識に大きな影響を受けていることに注意すべきである。

重点先行 ――いきなり核心から入る
第一の特徴は、「重点先行」、あるいはいきなり「核心から入る」といった、単刀直入な記事の構成方法である。伝えるべき重要な情報を先頭にして記事を構成する。付加説明や関連情報などは後にまわす。突発の飛び込み事件で、記事が刈り込まれたとしても、重要情報だけは伝えようという方策である。

長い記事の場合は、記事を要約した文章(リード文)を先頭に独立して置く。記事の全文を読まなくても、このリード文だけで概要を把握することができる。

凝縮的な表現 ――体言止めなど
狭い紙面にできるだけ情報を詰め込むために、体言止め、「が」で文章をつなぐ、接続詞の省略などが多用されている。一般文書では、これらの乱用はときに文章の品位を失う原因になる。

受け身の多用
「~とみられている」、「~と言われている」などの受身の表現が多い。これは新聞が客観性を要求されるということから、なるべく記者を第三者側に立たせ、読者を事態から一定の距離に置くための配慮であろうか。ある一面では責任回避とも取れる。


【新聞記事の例】
P社は、9月からデータベースを扱う技術者の資格認定制度を改定する。
資格を3段階に分け、2科目の合格から認定する内容。資格に応じた賃金体系を導入するSI企業などの動きに対応して、きめ細かな制度にする。低いハードルも設けることで、近く投入する新リレーショナルデータベース(RDB)の技術者層を広げる狙いもある。資格認定制度は、同社が販売しているRDBを中心にした標準的なデータベース技術者が対象。パソコンを使ってテストしており、有力SI企業のソフト技術者が多数取得している。
 



 


3.段落で組み立てる

技術文書の本文は段落 (パラグラフ)によって組み立てる。段落は文章の一区切りであり、内容的に連結されたいくつかの文の集まりと定義できる。あるいはブロックと言った方が視覚的には分かりやすいかもしれない。

段落とは、ある一つのトピック(小主題)について、ある一つの考えを述べるものである。思想の単位とも言える。ちょっと長々と文章が続いたから、そろそろ改行でもしよう、というような気分で新しい段落を起こすのではない。

段落の中心となるのは以下のようなものである。
・ある一つの考え ……処理速度が遅いのは~の理由による
・ある一つの意見 ……~のためには、コンピュータの更新が必要である
・ある一つの事実 ……社内業務にはERPシステムを利用している
・ある一つの事象 ……メールを受信するとタスク・マネジャーが起動される

ひとつの段落では、事実のみ、あるいは意見のみを、扱うこと。一つの段落のなかに、事実と意見が混在するのは好ましくない。


【段落の内部構成】
段落には、その段落の主張を代表する「中心文 (トピックセンテンス)」を置く。中心文を核として段落は構成される。中心文は段落の先頭にあって段落を代表し、内容を要約する役割を果たす。その後に、中心文をサポートして、その論理を展開・補強するために展開文がある。また、他の段落との関係や前後関係を示す補助文があるときもある。


段落は、おおよそ150~200字、3~5文で構成するのを目安としよう。中心文―1、展開文―2~3、補助文―0~1。このくらいが読んですんなりと一つの考えが頭の中に入って来る。技術論文では、文自身が長くなり、段落がさらに長くなる傾向がある。記述の対象が、どうしても複雑な事象が多くなるためだろうか。段落は短い方が読み手への負担は軽い。

段落の先頭に中心文を置くことは、なかなか訓練を要することであり難しい。導入文に続けて中心文を書くと段落全体のすわりがいいという場合も多々ある。まずは位置にこだわらずに段落には中心文を必ず置くことに留意しよう。
【段落例1】
実際に段落をまとめてみよう。材料とするのはベンチマークについての文章(①~⑤)である。中心文/結論は⑤と考えられる。

①一般的にシステムの性能評価にはベンチマークテストを採用する。
②ベンチマークテストは、ベンダ間の性能競争になりがちである。
③一部のベンダは、性能を出すために限度ぎりぎりのトリックをかける。
④システム構成が実システムから遊離することになる。
⑤ベンチマークテストの結果が、Web型システムの性能予測と合致しない。

これらの文章を、中心文 (⑤)を段落の先頭に置くようにしてまとめる。

一般的にシステムの性能評価にはベンチマークテストを採用する。しかし、ベンチマークテストの結果が、必ずしもWeb型システムの性能予測と合致するとは限らない。ベンチマークテストは、ベンダ間の性能競争になりがちであり、一部のベンダは、性能を出すために限度ぎりぎりのトリックをかける。このため、システム構成が実システムから遊離することになるからである。


【段落例2】
事象の説明を主体とする段落例である。一連の処理(事象)を時間を追って記述するため、中心文の性格は弱くなる。

ドライバーが望んでいる進路や速度を、ハンドルの角度と車輪の回転から確認する。次に、左右への揺れを振動ジャイロ・センサーが検出し、揺れのデータをコンピュータに伝える。コンピュータは、この2つのデータを比較して、車を安定ためのブレーキ圧を瞬時に計算する。そして横滑りを効果的に相殺するためにブレーキを調整する。

      段落の表記ルール
当テキストの本文では、スペース行による「段落分離方式」を採用している。この方式は、段落間の境界としてスペース行を挿入するものである。段落の開始はスペースを空けずに、そのまま書き出す。

印刷原稿のルールでは、段落間の境界として、段落の先頭で1文字分のスペースを空けて、段落の始まりを示すことが広く定着している。しかし、近年はパソコンで文書を作成するのが普通であり、そのような場合、モニタ上での文章の読みやすを考慮して、スペース行で段落を分離する方式が利用されている。
 



【段落を並べる手がかり】
主題を展開するためには、段落を並べてスムーズな構成(並び)に整理する必要がある。
この並べ方は、先に述べた文書のタイプ/本論の型に従えば、下表のようになる。

本論の区分  文書例  段落を並べる手がかりの例 
記録型  障害報告書
出張報告書 
・ある時間から次の時間へ
障害発生の経過時間に従って
・ある場所から別の場所へ
ニューヨーク市場から東証へ
説明型  操作説明書
機能解説書 
・重要なものから重要でないものへ
最初に電源を投入して……
・簡単なものから複雑なものへ
・特殊から一般へ 
証明型 企画提案書
研究報告書 
・既知のものから未知のものへ
現状のシステムから新機能へ
・結果から原因へ(または原因から結果へ)
・デメリットからメリットへ 


ここに示したのは一つの並べ方の例である。当然、文書の性格に応じて適切なものを考える必要がある。混在する場合もあるだろう。いずれにしても、ある一つの見解(論理の流れ)に基づいて並べることだ。


<整理の手がかりの一般ルール>
澤田昭夫は『論文の書き方』(講談社学術文庫、1977)の中で、アウトラインの整理方法として以下の8点の手がかりをあげている。一般的なルールとして参考になるだろう。
①場所Aから場所Bへ
②時Aから時Bへ
③重要でないものから重要なものへ
④既知から未知へ、同意点から論争点へ
⑤簡単なものから複雑なものへ
⑥原理的なものから応用へ
⑦原因から結果へ(または結果から原因へ)
⑧一般から特殊へ(または特殊から一般へ)



【段落をつなぐことば】
一連の段落によって一つの主張がまとまる。段落同士の論理的な関係を明確にするために、「なぜなら」「また」「それで」等々の接続詞や副詞を用いる。これらは段落相互の、理由や因果関係、時間的な順序関係、重要性の度合いなどを表す。
論理関係を明らかにする接続詞・副詞――第一に・というのは――などを積極的に用いて、段落をつなげて主張を明確にしよう。ただ、これらの接続詞や副詞を多用すると読み手は煩わしく感じるので、文章執筆の最終段階では見直しをして読みやすいようにスリムにしよう。

・順序関係(あるいは列挙)を示す:「はじめに」、「最後に」、「第一に」、「それから」、「また」
・理由を示す:「なぜなら」、「というのは」、「そんなわけで」
・因果関係を示す:「原因としては」、「結果としては」、「このような条件下では」
・目的-手段関係を示す:「そのためには」、「目的としては」、「手段については」
・帰結を示すもの:「とすると」、「だとすれば」、「それゆえ」、「だから」


【段落例3】――最初の段落(リード文)で要約を示す (下線を引いたのは中心文)
気象庁の予報方式について報じたものである。全体は4つの段落で構成され、先頭の段落は、全体内容を要約するリード文(タイトルの役割を果たしている。要約が先頭にあるために、本論の内容が長文であったり複雑な場合に、全文の理解をスムーズに行える。

3カ月天気予報 精度向上へスパコン利用 「数値予報」導入へ

気象庁は「3カ月予報」を一新させる計画である。これまでは過去50年間の気象データに基づいて予報を出してきたが、新たにスーパーコンピューターを利用した数値予報を導入する。今年7月に実験を始め、2002年度中の実用化を目指している。この導入によって予報精度が向上し、ユーザーの幅も広がる。(141字、5文)

現行の3カ月予報は、過去50年間の天気観測データの蓄積から、統計的手法で導き出している。しかし、①前例のない現象は予測しようがない②過去の例と同じパターンで推移するとは限らない――などの難点がある。新たに使う数値予報は、スーパーコンピューターに、地球全体を水平に180キロ四方、上空約40キロまでを40に区切ったマス目ごとに、気温や気圧などの大気の状態、海面水温の変動予測などのデータを入力する。データを3日間かけて計算し、3カ月先までの予想天気図や気温・降水量の推移などを31通り出力する。(245字、4文)

「1カ月予報」を数値予報に切り替えた際に、的中率が導入前と比べて約10%上昇した。このため気象庁は3カ月予報でも精度が上がると見込んでいる。翌月から3カ月間の天気について「晴れが多い」といった概況情報のほか、気温や降水量を平年と比較して示す。季節の特徴をつかめるため、衣料品や食料品などの仕入れ・生産計画などに利用されている。(162字、4文)

 




4.箇条書きのメリット

情報を整理して相手に伝える場合に、箇条書きは有効な手段である。読む側も即座に情報の価値を判断できるし、抜けている情報があれば直ぐに気がつく。気の短い管理者には、「余計な文言はいらない、全て箇条書きにして持ってこい」と乱暴な指示を出す人もいる。

箇条書きを適用するのは2つのケースが考えられる。
 ①ひとつのかたまり(空間的・時間的)を、個々に分割して列挙するとき
 →始めから終わりまで。電源の投入から切断までの手順、など

 ②ひとつの大きなグループから、小さなかたまりを抽出するとき
 →ベスト3の選出。不良原因の3悪、同種のものを並べて差異をはっきりさせるとき、など

①は、全体を分割して一つひとつの項目で記述するので、分割の基本ルールとしての「抜けがないこと、重ならないこと」「それぞれの項目が同じウェイトを持つこと」に注意しなければならない。

②の場合には、列挙のルール――例えば「重要度の高い順に並べる」――を明確にする必要がある。

事前に情報を整理することが箇条書きの前提条件である。それぞれの項目に重複があったり、抜けがあったりすると、本来の箇条書きの目的を果たせない。あまりにも多くの項目を並べるのも、一覧性を失うことになる。多くとも7、8程度の項目にまとめ、これを超える場合はさらにグルーピングが必要だろう。

箇条書きは、項目を並べる順序そのものが読み手へのメッセージとなる。例えば報告書では、問題提起の重要度の高い順が好ましい。またワープロの操作説明書では、電源スイッチのオンから始まる逐次的な操作手順になる。

一般的に箇条書きには次のようなルールがある。
    ①体言止め ②表現の統一 ③句点( 。)は附けない


【箇条書きの例】
    品質を保証しているものは次のような項目である。
①工学的原理。その製品を設計するとき、どのような原理で設計したか
②設計の内容。この原理をもとに、どのような設計がなされているか
③製造の条件。製造のとき、どのようにしてつくられているか
④検査データ。このデータも、すべてについてとっているわけではないことに注意
⑤使用時のデータ。実際に使ってみてどうだったか
(唐津一『QCからの発想』)


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