Ⅴ 実務への適用


  仕事の原理 ――パレートの法則――

「8-2の法則」、あるいは「パレートの法則」と称されるルールがある。イタリアの経済学者パレート(1848-1923)はヨーロッパ諸国の統計を分析し所得分布の不平等を示す経験則を得た。「社会全体の2割が高額所得世帯であり、彼らの所得・富が全体の所得・富の8割を占める」というもの。

つまり、世の中の現象には偏りがある、ということ。例えば、営業所の受注合計の8割は、営業員のトップ2割によって達成される、とか。ワープロの全機能のうち、日頃使うのはそのうちのたった2割でしかないが、ほぼ8割の操作を満足している等々。

品質管理の七つ道具の一つでもある。ある製品の事故原因を発生件数の多い順に並べたとき、上位2割の原因がすべての事故件数の8割を占めるという。このワースト1、2位の事故原因を撲滅すれば、お客様のクレームの8割は無くすことができるというわけだ。
思い切った表現をすれば、「インプットの2割がアウトプットの8割を制する」ということ。

出勤したら、まず今日やるべきことや宿題を書き出してみよう。10項目ぐらいになるだろうか。クレームの回答内容を上長に説明するとか、昨日の出張報告書を作成するとか、外注先への工程・納期の確認とか。このうち、優先順位の高い2項目をまずやっつけることにしよう。そうすると、今日の仕事の8割は片づいたということになるのだ。

あれもこれもと手を着けて発散してしまうB型人間や、くよくよ考えてなかなか実行が伴わない完璧主義のA型人間に、この「パレートの法則」はぴったりである。
 



 


1.電子メールで伝える

電子メールの特長は、第一に送信者と受信者の同期が不要であること。相手が不在であっても連絡ができることにある。第二は、電子メールを一旦受信すれば、相手とまったく同じ情報をデジタルデータとして共有できることである。ファクスでは回線の状態によっては文字化けが起きることもある。デジタルデータであれば、受信したメールを正確な文字データとして自在に編集することができる。たとえば、特定の件名で検索したり、受信メールを別の人に転送したり、またワープロの文書に張り付けたりすることもできる。

もちろん速報性とか、記録性とか、同時通報などの機能も強力である。忘れてならないのは、個人に対する機密性であろうか。一方、電子メールの欠点として、相手がメールを読んだのか読まないのか、あるいは通信障害で未着なのか、発信者には分からないことがある。だから受け取った方は、詳しい回答は後回しにしても、受信した旨を直ちに返信するのがエチケットの一つ(ネチケット)である。


【名乗ってから結論を】
メール本文は、余計な前書きをやめて、ビジネスライクに直ちに本文に入ろう。「拝承」とか「お世話になっていますとか」の前書きはいらない。社内文書であれば敬語への配慮も必要最小限でよい。またメールを受け取った方では、誰から来たメールか直ぐにはわからないのが普通である。特に転送が重なっている場合には余計わからない。だからメール本文の先頭でまず名乗るのがネチケットの第一。次に、重点先行の趣旨に従って結論をまず冒頭に置くこと。そして読み下せるように短文で書くこと。

メールの件名では、内容をズバリ要約すること。例えば、「システム停止の件」ではなくて、「停電によるシステム停止の連絡」とか、相手にアクションを促す言葉を入れること。単に「~について」や「~の件」などのように、本文を読まないと内容が分からない件名は、まどろっこしいものだ。

メール本文は、要件ごとに段落で区切ってまとめること。段落はせいぜい3行程度か。段落の区切りには、スペース行を置いて次の段落を始めるのが良い。先頭の1文字空けよりも、スペース行の方が段落の区切りがはっきりする。視認性・可読性を考えよう。また、視線を動かさず、スクロールしなくても読めるように、20字前後の短い文章で組み立てること。センタリング等の書式に配慮するのも不要である。情報量を増やしてパソコンの画面に見やすく記述することが大切だ。

【箇条書きの活用】
要件を明確にするために箇条書きは効果的である。積極的に活用したい。視覚的に訴える力を増すために、記号を箇条書きに利用するのも良い。例えば、“◆”を個人的には提案したい。


【電子メールの具体例】
<例>


送信者:<kana@msa.soft.co.jp>
宛先:<osama@msa.soft-dev.co.jp>
CC:<kisama@mba.soft.co.jp> BCC:<anata@mca.soft.com>
送信日時:2007年2月22日 9:04
件名:納期決定(8末)の連絡
本文:
システム開発部 田中様
金沢@ソフト開発です
先日 依頼した 設備計画資料の件
早速 送付頂き ありがとうございます

◆納期については
お客様と 先週2/24(土)に 打合せた結果
今年の8月末までには 何とかして欲しいとのことでした
詳細資料は 別途送ります
以上

 


【チェック・ポイント】
◆所属部署などを含めて、あて先/発信者名をはっきりと書くこと。
◆結論から書き出すこと。簡潔にスクロールしないで読み下せるように書くこと。
◆箇条書きを活用しよう。1文は短く(40字を超えない)。段落は3文でまとめる。
◆後々の検索を考えて本文に的確なキーワード(固有名詞・顧客名など)を入れておく。
◆機種依存型の記号(丸数字 ① ② ③ 等々)や顔文字 ヾ(^v^)k は使わないこと。

【件名の活用】<件名は最も情報伝達効率が高い>
◆本文の内容が伝わるように具体的かつ要約的(連絡・報告・依頼・指示)に書くこと。
  お知らせ →「工程会議延期の連絡」 →「工程会議 2/26に延期」
◆結論や発信者名を入れても良いだろう。 「……のお願い:金沢から」

【注意事項】
・詳しい回答は後にしても、受信した旨をすぐ返信しよう(メール不着では宛先間違いが最多)。
・添付ファイルに全情報を委ねないこと。本文になるべく盛り込むこと。
・CCとBCCを目的によって使い分けること。
・返信時に件名を変えないこと。
・開封要求は不快に感じる人もいるので、特に外部ユーザには注意。
・添付ファイルとしてMSのWord/Excel/PowerPoint形式を無条件に採用しないこと。


BOOK 『ソフトウェア開発の神話』要員の増加はかえって遅れをひどくする   
遅れているソフトウェア開発プロジェクトでは、開発要員の増加はかえって遅れをひどくする。これをブルックスの法則という。プロジェクトに必要な開発期間は、それぞれ分割された作業同志の順序性によって決まるし、要員数の上限は独立した作業の数によるのだから。

ソフトウェア開発プロジェクトの失敗原因は大部分が開発期間の不足として、次のように分類できる。
(1)見積り技術の未熟さ。その未熟さゆえに、プロジェクトの進捗上の問題点に気づくことが遅れ、「すべて順調」といったまったく誤った認識を持っていることさえ多い。
(2)「人数と時間には互換性がある」という誤った定理を信じていること。工程が遅れた時にさらに人間を投入し、結果としてかえってプロジェクトを混乱させてしまう。仕事に順序性があって分割できないならば、労力の投入は何の効果も期待できない。何人の女性を動員しても子供を産むには10カ月が必要なのである。
(3)見積り技術に自信がないことから、プロジェクト・リーダーは確固とした工程を確保する頑固さに欠けてしまうこと。あまりにも発注者の意向に合わせて、予定を立てることがないだろうか。

本書はOS/360という超大型システムの開発経験を集約したもの。原著発行から既に30年は過ぎているがソフトウェア開発論としてだけでなく、組織論としても経営論としても読める。

◆『ソフトウェア開発の神話』フレデリック・ブルックス*著・山内正彌訳
              企画センター、昭和52(1977)/3
* IBMのOS/360開発プロジェクトのマネージャーであった。
 



2.議事録をまとめる

【議事録の役割】
ソフトウエアの特質のひとつは「変化」である。受注プログラムの開発などでは、工程の進捗と共にユーザの要求はどんどん拡大し仕様が変わるのが通例である。開発当初に計画した機能は、業界状況とか他社に対する競合力の強化策などによって変わってくる。このような変化に追随しプログラムを完成させるためには、既定の仕様書だけでは不十分であり、その都度、議事録などで更新・補完することが必要となる。議事録は仕様書より優先するのである。

また、約束ごとを記録するのも議事録の役割である。議事録を書かなかったために、約束違反をユーザから指摘されて大赤字となった事例も散見する。ユーザとの打合せの場では自ら率先して議事録を書く心得を持とう。議事録を書くには、正確な知識――技術的なものだけではなくユーザー環境なども含めて――を持つことが前提条件である。

議事録は、2つの方式に分けられる。①逐次的記録。誰が何と発言して、どう回答したか、など時間の経過に従って記録する方式である。これは臨場感があり、会議の雰囲気が伝わるというメリットがあり、書く手間も少ない。もう一つは②要約的記録。会議の結論、決定事項、宿題等々を項目ごとにまとめて書く方式である。まとめるのには工夫が必要である。いずれにしても、議事録の冒頭で会議の結論がわかるようにすること。全体がA4の1ページにまとまればベストである。

パソコンなどを活用し議事録をデジタルデータ化するメリットは、検索性に優れるということ。たとえば、月日とか特定の顧客名で議事録を検索したいときがある。

【チェック・ポイント】
◆決まらなかったことこそ議事録に書くこと。
◆メモを取る代わりに、その場で議事録を書こう。
出し遅れの証文とならないように。
◆年月日の記入は必須。記入書式を統一しておくこと。
◆固有名詞をきちんと正しく書くこと。
 会社名、人名(役職)、プロジェクト名、略号、……
→検索するときに、もっとも有用で使用頻度が高いのは固有名詞である
 「冨士写真フイルム」か「冨士写真フィルム」か、「日本コロムビア」か「日本コロンビア」か


【議事録は差分でしかない】
議事録は本来の仕様書の差分である。従って議事録だけでは全体像を把握できない、という欠点がある。適当なタイミングで、機能仕様書を全部印刷して見るなどして全体像を再確認することが欠かせない。


【具体例】


【議事録】 <ご承認欄>
配布先:
会議名:XXシステム工程会議 (第25回) KG-25a
日時・場所:H19.2.26(火) 13:30~15:20 新日本製作所 情報管理部 第3会議室
出席者:新日本製作所殿 情報管理部 田中部長(途中退席)、佐藤課長、山田主任
ソフト開発 第5システム部 鈴木、上田、下田(記)
欠席者:ソフト開発 横川営業部長
配付資料:工程進捗状況表(ソフト開発)

議事内容:
ソフト開発 鈴木から、工程状況と遅延対策を報告し、新日本製作所殿の了解を頂いた。

[決定事項]
(1)人員を投入し遅延を回復する→2/28(ソフト開発)
(2)マシンを増設手配する→2/28(新日本製作所)
(3)運転マニュアルを完成する→3/15(ソフト開発)

[未決事項/宿題]
(1)画面仕様の見直し →次回に見直し結果を提出(ソフト開発)
(2)マニュアルへの要望をまとめる →(新日本製作所)

[次回予定]
・開催日時・場所:H14.3.26(火) 13:30~15:20 新日本製作所 情報管理部 第3会議室
・議題:品質状況の確認
・出席者:QA担当部署の出席をお願いする。
 


【注意事項】
・A4で1ページに収まればベスト。コンパクトに要領よくまとめよう。
・核心事項は誤りなく記入すること。納期、仕様変更、金額など。
顧客の承認を得ることも必要。
・電子メールで管理する場合は、決定事項を先頭に置くなど定型のレイアウトを工夫すること。
・配布先は、少ないよりも多い方がよい。
・単なる参考資料なのか、あるいは情報連絡なのかを受け取った側が判断できるようにする。
・同一プロジェクトでは、一貫して同一フォーマットの議事録を使うこと。



3.仕様を決める

仕様書は、設計工程で作成するドキュメントである。機能仕様書などに代表される技術文書が該当する。
・機能仕様書の目的は、当該ソフトウェア製品の外部仕様、すなわち機能の定義とその適用範囲などを明確に決めることである。
・機能仕様書の第2の目的はは、外部仕様を実現するにあたり、どのようなシステムまたはプログラム構成を採用するかあるいは、どのような処理方式を採用すべきかを明確にし、それ以降の工程で作成するドキュメントの指針とすることである。
・外部仕様や内部処理仕様を明確に定義するために、積極的に図表を用いること。

【具体例】<仕様書の書式はプロジェクトごとに詳細が決められている>


[概要] (1)システムの目的 (2)関連ドキュメント (3)用語の定義
[前提条件および適用範囲] (1)前提条件 (2)適用範囲
[機器構成] (1)機器構成 (2)付加機器
[機能] (1)機能一覧 (2)機能詳細
(Excelであれば)
・セルAとセルBの合計をセルCに表示する
・セルAの内容を印字する
[インタフェース] (他コンポーネント/外部システムとの接続)
……特にオープンシステムではソフト/ハードともに注意
[処理方式]
(1)実現方式 (2)データ処理の流れ (3)異常処理
[性能設計目標] (前提条件の明記)
(1)スループット (2)ターンアラウンド・タイム (3)処理可能データ件数
[品質管理基準]
(1)障害時のデータ処理 (2)品質目標値 (3)MTBF値 (4)セキュリティ

 


【チェック・ポイント】
◆仕様書の作成/完成に当たっては、レビュー(審査)が必須。図表を活用するなど、レビューしやすい書式とすること。レビューしやすい機能仕様書は、結果的に仕様が整理され、すっきりしたプログラム構造を実現できる。エンドユーザを交えてレビューすること。
◆あらかじめ明確にできない仕様が出てくるかもしれない。このときは、どの仕様を、いつ(期日)確定するかを、ユーザと協議してはっきり文書化しておくこと。放置しないことだ。
◆一旦、仕様が確定した後も、変更があるのは普通である。仕様変更を前提として、変更部分がはっきりと分かるように書式を工夫しよう。
◆仕様書によって工程初期段階でのベクトルが決まる。初期状態のわずかなズレが、工程の終わりには大きな差異となって影響する。


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