■ チョン・ミョンフンがN響を振った ブルックナーとマーラー (2008.3.9)

2008年2月のNHK交響楽団の定期公演には指揮者としてチョン・ミョンフンが登場した。
このところ東フィルへの登場機会も限られているようで、久しぶりの渇を癒す演奏会であった。
指揮したのはいずれも大曲の、ブルックナーの交響曲第7番と、マーラーの交響曲第9番。

チョン一家の母親である李元淑さんの自伝『世界がおまえたちの舞台だ』は → こちら


■ブルックナー:交響曲第7番 ――低速トルクの効いた演奏 (2008.2.9)

今にも雪が降り出しそうな冷たい風のなか、渋谷のNHKホールに向かった。NHK交響楽団の定期公演 Aプログラム、チョン・ミョンフンの登場である。チョン〜N響のコンビは初めての経験。ちょっとわくわく感がある。

・メシアン:《キリストの昇天》
・ブルックナー:交響曲 第7番

ちょうどホールの2階で行われた、開演前の室内楽の演奏に間に合った。本日のプログラムは、バルトークの弦楽四重奏曲 第4番から第1、4、5楽章。なにか激しい思いをぶつけるような曲想だ。あとでじっくり聞き込みたい曲ではある。バルトークピチカットが印象的。この開演前のサービスは良い試みだといつも思う。

最初のメシアンの《キリストの昇天》。トランペットの斉奏から始まる。いかにもメシアンの響きだ。最後は、弦(奏者を減らし小編成になっている)合奏で静かに終わる。夜の音楽の雰囲気があるが、和らぎを感じつつ静かな終焉。

さて期待のブルックナー。低速トルクの効いた、エレガントな演奏ではなかったか。トヨタ自慢の高級車レクサスのアクセルを静かに踏みこんで静かに加速するようなエレガントな雰囲気の演奏ではなかったか――レクサスなんて乗ったことがないけど。そして、しかるべきところでは十分な爆発力を発揮するといった感があった。N響の実力も見直しました。

第1楽章冒頭のまさに霧がぬぐわれるような、なめらかな音量の変化に引き込まれてしまった。どこか荒々しいリズムの第3楽章ですら、優雅ではなっかたか。テンポも実にゆったりしていたのでは。しかし、第4楽章になれば、柔らかな弦と対照的に、決然とした金管群が鳴り響いて、堂々としたフィナーレに至るのが印象的であった。

やはり白眉は第2楽章か。ワグナー・チューバ4本の活躍もじっくり聞けた。さすがにワグナーへの哀歌である。シンバルとトライアングルが響くのはノヴァーク版の特徴か。楽章の終わり、ワグナーチューバ群がワグナーの楽劇の響きに通じるものがあったのは当然だろうな。それにしてもコントラ10本の威力はあった。あのNHKホールでも十分だ。

チョンの指揮ぶりは、小股の切れ上がったとも言いたい、いつもながらにスマートで小気味の良い様である。座席の後からは韓国語が聞こえた。ブルックナー終わった後の拍手、舞台の最前面に立ち寄って拍手していたのは、いつものチョン親衛隊のようである。ホールを出たら、大振りの湿ったばたん雪がかなりの勢いで降りしきっていた。


■マーラー:交響曲第9番 ―― 流線型だった (2008.3.16)

NHK交響楽団 定期公演 第1614回 Cプログラム NHKホールにて 2008.2.16(土)

・メシアン:《忘れられたささげもの》
・マーラー:交響曲 第9番
指揮:チョン・ミョンフン、コンサートマスター:堀正文

最初の《忘れられたささげもの》は12分ほどの小曲。解説によれば、メシアンの最初の本格的なオーケストラ作品だという。
後半はヴァイオリンのゆったりした流れが続く。思わず睡魔に引き込まれて至福のときをたっぷりと。

マーラーはどうだったか。全体的には流線型のスマートな演奏だったと言えるのではないか。

第3楽章が超高速で終わると、静かに決然と第4楽章へ。
この辺の対比は計算づくだと思うが、ひときわ第4楽章の静かなたたずまいが浮かびあがる。
ここで、大規模な弦合奏が本領を発揮する。通常の倍近い奏者ではないか。数えることができるだけでも、コントラバスは12人だ。チョン特有の組み立て――弦パートの重視したピラミッド構成――のようである。NHKホールのボリュームの大きさを考慮したようでもある。

分厚いハーモニーが静謐に響く。さすがのチョンも情熱をこめて振りオケをリードする。しかし、ちっともスマートさを失わない。
かすかに炎が消えるように幕切れを迎える。

振り終わったチョンが棒を置くまでは拍手は控えたいものだ。
残念ながら拍手のフライングがあった。


戻る