■ チャールズ・シュワブのCEOが書いた『クリック&モルタル』 ( 2001.2.18)




「クリック&モルタル」とは、『日経コンピュータ』によれば、実在の店舗とインターネット上のオンライン店舗の相乗効果を狙った取組みや事業戦略の総称とある。「クリック」はもちろん、マウスのボタン操作を表し、インターネットによって築かれた広大なサイバー・スペースを指し示している。米国ではインターネットによる取引と実店舗でのコンサルティング・サービスを巧みに組み合わせて成長を続ける大手証券会社チャールズ・シュワブが「クリック&モルタル」の代表例とされる。


本書は、このチャールズ・シュワブ社のCEOデビッド・ポトラックとコンサルタントのテリー・ピアースの共著である。いやでも興味をそそられる。原著は米国で2000年早々に出版されたもの。新世紀を迎えてからドットコム企業の失速が相次いでいるが、これらの変調要因を本書から読み取ることができるのであろうか。

内容はまっとうなビジネス書である。インターネットやそれに伴うテクノロジーが企業のあり方を大きく変えつつあること、そして情報が力であることを認識したうえで、新しい環境への適応が企業として大きな試練であるとしている。「クリック&モルタル」だからといって奇を衒った主張はどこにもない。構成は3部に分かれている。第1部 核となる企業文化:インターネット時代に情熱溢れる企業文化を創り上げる。第2部 リーダーシップの実践:情熱を原動力に企業を成長させる。第3部 経営の実践:インターネットの世界に情熱をもたらす。

「モルタル(漆喰)」は 情熱と確信を意味するとしている。意気込みと情熱が欠かせない、社員と企業と顧客をひとつに結びつけることが必要である。インターネットは仮想的な空間だけに、情熱が何よりも大切なモルタルの役目を果たすのだ。「インターネットは物の見え方を変え、スピードを変える。だが、ビジネスの原則、すなわち行動の裏にある核心は、けっして変わることはない」。そして「果てしなく成長し続ける技術の世界において、成功の決定要因はますます人間におかれている」と締めくくっている。

結局、ドットコム企業の敗因は、あまりに技術面にとらわれ、人間的側面を見失ったということか?シュワブ社では取引の8割を電子的に行っているにもかかわらず、新規の口座の7割は支店で、顧客と担当者が顔を合わせながら開かれているのである。松井証券・松井社長の言葉を思い出した、「『企業が顧客の行動や思考を一方的にコントロールする』という天動説のような考え方は通用しない。今は顧客が企業を支配する『地動説の時代』。」


◆『クリック&モルタル』デビッド・ポトラック、テリー・ピアース共著、坂和敏訳、ビジネス・アーキテクツ監訳、2000/11、翔泳社


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