■ 『ダーウィン以来』 進化論への招待 (2005.3.20)




著者スティーブン・グールドは1941年の生まれ。2002年5月に死去、まだ60歳であった。5歳で恐竜化石を見て古生物学者を志し、32歳の若さでハーバード大教授に任ぜられた。本書の執筆は30歳代前半。グールド初の科学エッセイ集とのこと。

進化生物学の興味深いテーマを思いがけない切り口で展開してくれる。なかなか難解でもある。カンブリア紀の大爆発については、素人なりに理解することができたが、さらには、後の著作『ワンダフル・ライフ』(19899年出版)を読みたくなるように誘惑される。

グールドは「断続平衡説」というのを提唱している。進化はほとんど変化のない時期と、急速な変化期からなる断続的パターンをたどる、とする。自然淘汰や、緩やかに少しずつ進む進化を基本とするのではあるが、従来からの進化の要因やパターンの画一的な見方を大きく変えるものである。

5億7千万年前、カンブリア紀の最初の1000万年から2000万年の間に多種多様な生物が急速かつ爆発的に増加した。古生物学者によれば、生物の多様性の増大を先カンブリア紀後期から生物の爆発的多様化の終わりまでの時間に対してグラフに描くと、一般的な成長のモデル――いわゆるS字状曲線 (シグモイド曲線=成長曲線) ――に一致するという。

先カンブリア紀の海洋には、豊かな空間と豊富な食物があった。生態系に拘束はなく、爆発的な進化が予測されるパターンである。カンブリア紀の指数関数的増大によって地球上の大洋は生物で充満された。海中の生物は豊かな多様性をもち、この後の進化の基盤となる基本セットがほとんど用意された。脊椎動物の祖先となるものも見られた。そして、指数関数的段階は天井に達し、シグモイド曲線が完結する。ある一定した個体数に落ち着く。「断続平衡説」そのものだ。

周期ゼミ――ある一定の間隔で大量発生を繰り返す――の話も興味深い。たいていの生物は「生存競争」において、ヒトとは異なる戦略をとる。大量の種子や卵を産むこともそうだ。生後初期の苛酷な環境を乗りこえて、少しでも多くのものたちが生き残ることを望むからである。彼らの進化上の防衛策は、食われる機会を最小にする戦略でなければならない。

セミが採用する戦略は非凡である。グールドは「捕食者飽食戦略」と名付けている。セミは美味なのできわめて捕食されやすい。けれども、非常に稀にしか姿を見せず、しかもいったん姿を現わしたときにはきわめて大量であれば、捕食者たちはこの大盤振舞の御馳走をことごとく平らげてしまうことは不可能であろう。セミには子孫を残すチャンスが与えられるはずだ。

この大量発生は、捕食者が簡単に予測時期に合わせて、自身の生活環境を調整できるものであってはならない。周期ゼミには13年と17年周期のものがあるという。この数字は素数である。セミの羽化の年と捕食者の繁殖の年とがたまたま一致してしまうと、セミはひどく捕食されるだろう。大きな素数を周期にとれば、2つの周期が一致する回数をセミは最小にすることができるではないか!


◆ 『ダーウィン以来 進化論への招待』 スティーブン・グールド著、浦本昌紀・寺田鴻訳、ハヤカワ文庫、1995/9


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