■ 《ドン・ジョヴァンニ》 大野和士のレクチャー・コンサート (2004.12.25)



12月22日(水)にオーチャードホールで、「大野和士が語る!《ドン・ジョヴァンニ》 の魅力」と題するレクチャー・コンサートがあった。時間的にも事前のPRに余裕がなかったためか、聴衆も限られたものであった。大野は前日にベルギーから帰国したばかりとのこと。出演者はほかに、石上朋美 (ソプラノ)、林美智子 (メゾ・ソプラノ)、山下浩司 (バス・バリトン)。

ベルギーのモネ劇場で、昨年2003年12月、大野は《ドン・ジョヴァンニ》をにデイヴィッド・マクヴィカーの演出でプレミエしている。来年2005年10月の来日公演は、このバージョンをそっくり持ってくるそうだ。

このようなレクチャー・コンサートで毎回感心するのが、大野の表現力が実に多面的であること。ピアノ演奏は別として、俳優顔負けの演技力、言語による的確な表現――かつて『中央公論』に1999/12月まで「タクトひとり言」というエッセイを連載していたほど――は抜きんでている。それに、作曲当時の社会情勢をきっちりと把握していることに気づかされる。もちろんユーモアが忘れられることはない。

大野はこのような啓蒙的なレクチャーを数多くこなしている。以前、東フィルとのコンビでやっていた、オペラ・コンチェルタンテ・シリーズでは、舞台にピアノを持ち出してのプレ・トークが必ずありましたね。通り一遍の解説ではなくて、自らが発見した新しい視点を、わかりやすく伝えようとの意志が強く働いている。ピアノ演奏が加わるので一段と説得力がある。

事前の解説なんて要らない、演奏が全て、との考えもある。しかしオペラなど、構造的に解き明かしてくれるのは非常にうれしい。作曲者の意図をつかんで、内容の理解にも一段と興味が深まる。ストーリーと音楽的意味づけが、こうつながっているのだよ、と教えられるのはとても新鮮である。

今回の《ドン・ジョヴァンニ》はどうだったか。大野によれば、このオペラはモーツァルトの人生の集大成であるという。また、モーツァルトは、オペラの中でひとつのキャラクターを成長させるのが特徴だと。

例に挙げたのがツェルリーナである。第1幕では、マゼッタにぞっこんの田舎娘の感がある。アリア「ぶってよマゼット」は音楽的にも単純である。ところが第2幕のアリア「ねえ、大好きな人(薬屋の歌)」、おぼこ娘は一夜にして成熟した女へと成長している。あまつさえ、ここを触ってごらんと、胸へ手を入れろと誘う。大野はモーツァルトが描き分けたこの音楽を聞きなさいという。ピアノと林美智子さんの歌で存分に聞かせてくれました。心臓の鼓動を弾くコントラバスの役割にも納得しました。

余裕たっぷりのレポレロ、チャーミングなツェルリーナ、など実に楽しい一夜でした。来年10月に予定されている引っ越し公演が待たれますね


◆モネ劇場 来日公演スケジュールはこちらに詳しい → 指揮者 大野和士 最新情報


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