■ 『フィンランド語は猫の言葉』 シベリウスとパルムグレン (2008.8.26)


フィンランドの人口やGDPの規模は北海道とほぼ同じらしい。シベリウスの音楽からイメージされるような、森と湖の国という先入観は古いようだ。今やフィンランドはハイテク国家のようである。ノキア――携帯電話の販売台数ダントツで世界トップ――はフィンランドのメーカーである。またマイクロソフトのWindowsと張り合っている、パソコン用の基本ソフト(OS)、リナックス(Linux)を開発したのも、フィンランドの大学生である。 → リナックス革命の真実

フィンランドの教育システムも注目をあびている。数年前に経済協力開発機構(OECD)の調査結果で、日本の中学生の読解力の低下ぶりが報告されたとき、参加41カ国の1位はフィンランドではなかったか。フィンランドでは、教師になるには大学院卒の修士資格が必要で社会的地位も高い。国を挙げて読書文化も推進している……などなどNHKで見たような記憶がある。

この本『……猫の言葉』は古本屋の100円均一棚にころがっていたのを、奇妙な題名にひかれて手に入れたものだ。単行本の出版は1981年。あとがきに70年代のフィンランド留学体験とある。もちろん、今ほどフィンランドの情報は溢れていなかったし、渡芬(とふん)すること自体が自ら道を切り開かなければならない悪戦苦闘の一大事業だったはずである。当時著者は二十代後半とのこと。みずみずしい青春の記録でもある。

著者は、芸大の美術科に席を置いていたそうだ。フィンランドの美術史に興味をもっていたのだが、芸大ではフィンランドの美術史なんて教えていない。どうしてもやりたとの想いで、ヘルシンキ大学への留学を目指したということだ。

音楽の吸引力もあったようだ。私をフィンランドへ呼び寄せたのは音楽だったと言う。シベリウスの音楽はもちろんのこと、現代作曲家の作品にも魅了された。特に、パルムグレンの「河」というピアノ協奏曲を聞いた時には、とどめを刺されたような感じだったと。

ところで、「猫語」とは……。フィンランド人はニーン、ニーンと言うけれど、著者には猫の言葉に聞こえるからだという。ニーン、ニーンとは、フィンランド語で相槌を打つときに言う言葉だが、話をしている時に相手がただ、「ニーン、ニーン、ニーン」と言うと、なんだか猫と話しているような気がしてくるそうだ。

◆ 『フィンランド語は猫の言葉』 稲垣美晴、講談社文庫、1995/2

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