■『フリーエージェント社会の到来 「雇われない生き方」は何を変えるか』 (2002.12.17)

21世紀には、私たちは「引退(リタイヤ)」するのではなく、「e リタイヤ」とでも呼ぶべき人生の新しい段階を迎えるようになるだろう、と著者は言う。定年で完全に仕事をやめてしまうのではなく、フリーエージェントとして働き続けるようになる。インターネットを使って仕事を探し、働くのだと。インターネットは、高齢者の価値を高め、知識労働から肉体労働的な要素を減らすことができるからだ。

フリーエージェントとは何か? もちろん、いま新聞のスポーツ欄をにぎわしている松井秀喜とか中村紀洋のことではない。本書ではこう言っている。フリーエージェントとは「インターネットを使って、自宅でひとりで働き、組織の庇護を受けることなく自分の知恵だけを頼りに、独立していると同時に社会とつながっているビジネスを築き上げた」人々。フリーエージェントは、フリーランス、臨時社員、ミニ企業家のどれかに分類できるという。フリーランスとは、特定の組織に雇われずに様々なプロジェクトを渡り歩いて、自分のサービスを売ること。作家、芸術家、写真家、経営コンサルタントなど。既にアメリカの労働人口の4分の1=3300万人が、このフリーランスとのこと。

アメリカ人の労働観や働き方に根本的な変化が起きているというのだ。第一に、個人と組織の関係の変化。「会社はファミリーだ」という、家族的温情主義はすでに時代遅れである。テクノロジーも大きく変わって来ている。特に知識経済の生産手段は、パソコンに代表されるように、小型で安価、操作も容易で、広く普及している。インターネットについては言わずもがなである。第二は、組織の短命化。企業のライフサイクルは、インターネット時代にふさわしい長さに短縮された。ひとつの組織に一生涯勤め続けるなどということは考えられなくなってきた。

フリーエージェントにとって、意味のある仕事とはどういうものなのだろうか。キーワードは、自由、自分らしさ、責任、自分なりの成功だという。仕事における「成功」の概念が変わってきているのだ。フリーエージェントにとって、仕事は「明日のため」のものというより、それ自体がご褒美なのである。フリーエージェントの仕事探しでは、「弱い絆」が不可欠だと。緊密な関係より緩やかな関係のほうが現実的であると。弱い絆で結ばれている知り合いは、いつも親しくしている相手ではないからこそ、自分とは縁遠い考え方や情報、チャンスに触れる機会を与えてくれるのだ。

日本はフリーエージェント社会となり得るか?玄田有史(東京大学助教授)は解答している。日本の企業にはタテ社会が依然として残っている。しかし、フリーエージェントの出現を感じさせる兆しがあると。フリーターの大量出現とか。会社の倒産などで、企業の寿命が実はあっけないほど短いことを思い知らされた社員も多い。いやおうなく、フリーエージェントという選択肢を視野に入れて生きるようになるという。タテ社会からヨコ社会への脱却が迫られているのだ。そして、企業社会を変えるのも、「弱い絆の力」がカギになるという。

自分のホームページをつくり、そこでFAになることを宣言しよう。まずは宣言し、自ら行動を起こすこと。夢をもつことではない。行動することが大事なのだ。


◆ 『フリーエージェント社会の到来 「雇われない生き方」は何を変えるか』 ダニエル・ピンク著、池村千秋訳、ダイヤモンド社、2002/4


■ 『定年自営のすすめ』 フリー契約で仕事をやる (2002.12.22)

日本でもSOHO労働者が急増しているという(日経新聞2002.12.22)。SOHOとはスモール・オフィス・ホーム・オフィスの略。小事業所でITに関連した事業などを行う業態と定義される。2001年末で100万人、2006年には400万に達しようかという勢い。ITの普及によって、少ない設備投資、少人数でも開業できるというメリットがある。組織に縛られない生き方を選ぶ人や主婦などがこうした事業を始めるケースが増えているという。


世界保健機関(WHO)が発表した、2002年版の年次報告(2002.10.30)で、日本の平均寿命(2001年)は81.4歳と、前回に続き世界一の長寿国とのこと。障害や寝たきりの期間を差し引いた「健康寿命」でも73.6歳でトップ。男性の平均寿命は77.9歳、女性は84.7歳。「健康寿命」は男性が71.4歳、女性が75.8歳。日本企業の定年はほとんどが60歳。定年退職後に、10年〜20年ほどの人生が残っているのである。

定年後にも仕事を続けたいと思う人は多いはずである。業態としては、「フリーエージェント」は可能性の高い選択肢である。SOHOは、フリーエージェントの一つの業態であろう。本書はフリー契約=定年自営の道を提案している。

定年で辞める時に、現在の会社と、今やっている仕事の一部を切り出しを交渉し、請負契約を結ぶ。退職後は、それをベースにして、他の部や取引先に営業し、注文を増やしていく。これが本書で提案する「定年自営」の構造。在職中に培った専門性や特技を生かして、特定の業務だけを請負で行う「フリー契約」だ。

これまで長年やってきた仕事のスキルなら、市場でそれなりの競争力を持つわけである。企業は、これまでのその人の仕事の質がわかっているから、安心して仕事を発注し、在職中よりも低コストのアウトソーシングの受け皿にできる。会社にとっても雇用契約ではないため、長期的固定費にならずに、雇用保険料等の福利厚生費の発生が抑えられるというメリットがある。

定年自営の成功の条件を挙げてみよう。
・自分の仕事が競争力があるものなのかどうか。スキルが他の人より優れているのかどうかを常にチェックする。
・他のアウトソーシング、外注先と比べて、自分が請け負ったほうがいい競争条件を実現すること。市場で自分の仕事を売るということを考えなければ、請負のプロにはなれない。
人間関係の重要さ。在職中のルートを、太く信頼性の高いものにしておくこと。
・いかに営業力を持って、顧客を開発できるかが商売のポイントになる。


◆ 『定年自営のすすめ』 西山昭彦、講談社、2001/1

◆ 西山昭彦 (にしやま・あきひこ) 1975年一橋大学社会学部卒業。東京ガス都市生活研究所長


読書ノートIndex2 / カテゴリIndex / Home