■ 『富士通におけるソフトウェア品質保証の実際』 古い。しかし実戦的で役に立つ (2004.8.1)


693ページの大著。既に刊行後、15年経っている。アマゾンやbk1などのオンライン書店のデータベースでは検索できるので、まだ絶版とはなっていないようである。本書のように、ここまで幅広く実践的に、ソフトウェア開発工程を品質保証の観点からまとめたものを他に知らない。

確かに古い。ウォーターフォール型の開発が本書の前提でもあり、システム形態も、いわゆるクローズド型である。ひとつのメーカーがすべてのソフトを面倒見ていた時代だ。当時は銀行の第3次オンラインなど大規模開発が目白押しであった。本書からは、開発現場の熱気――自分たちで基準を作り上げようとの心意気――が伝わってくる。

本書の編集方針は、システムエンジニアリングの実務者向けの実践的ノウハウ書とする、こととある。この方針が貫かれていることに感心する。基盤となるものは、現今のオープンシステム時代でも変わらないのだ。また、ソフトウェアを、カスタム・ソフトウェア、パッケージ、システム・ソフトウェアと3つに分類しているが、最終章に、ユーザ・マニュアルが設けられていることに、編者の見識を感じる。

品質保証には、特効薬はありえないと言う。Plan-Do-Check-Action のサイクルを繰り返すこと。源流での管理(Plan)、目標による管理(Do)、データにもとづく管理(Check)、PDCAの回転(Action)、である。

そして、バグ不良原因の追及はいつの時代も変わらないはずだと。第一に、一つひとつのバグを個別的に(統計的ではなく)分析すること。第二は、設計担当者にしつこくインタビューし、バグの作り込みの過程をよくみながら、どこで間違ったかを分析することである。

この分析結果をもとに、七つの設計原理が導かれたという。
この七つの設計原理を列挙してみよう。これはいつの時代でもソフトウェア開発の真理ではないか。

@単純原理:単純に素人っぽくプログラミングすること。
A同型原理:形にこだわるという原理。同じことは同じようにやること。
B対称原理:上があれば下、右があれば左、アクティブがあればインアクティブというような対称性にこだわる。
C階層原理:形の階層的な美しさにこだわるという原理。
D線形原理:形は直線だけによって描かれており、さらに矩形であるのがよいとする原理。
E明証原理:少しでも不透明なロジックは証明しておくように努めること。
F安全原理:必然性のないところやあいまいなところは、ちょっとルーズに安全サイドで設計しておくこと。

◆『富士通におけるソフトウェア品質保証の実際』 久保宏志監修、日科技連出版社、1989/9月刊


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