■ 『異星人伝説 』 20世紀を創ったハンガリー人 (2009.6.1)



いまコンピュータといえば、パソコンをはじめとして、すべてがプログラム内蔵方式――ノイマン型、と言われる。これはハンガリー出身の数学者ノイマンのアイデアである。コンピュータに、あらかじめデータとプログラムを入力しておき、内蔵されたプログラムに従って、次々と効率的に操作を実行する方式だ。

ジョン・フォン・ノイマンは、1903年ハンガリーに生まれ後年米国に渡った。20世紀最高の頭脳といわれる。マンハッタン計画にも参加。ゲームの理論も彼の業績である。この理論が、米国の核抑止力政策に応用されたというのは有名なエピソードだ。

ハンガリーは、20世紀の科学の発展に貢献した多くの頭脳を輩出している。とりわけ物理学分野に重要な貢献をしている。原子炉設計のユージン・ウィグナーや水爆開発のエドワード・テラー、流体力学のパイオニア、テオドール・カルマン。放射線トレースの発見者、ジョージ・ヘヴェシ等々。ルービック・キューブを発案したルービック博士も。

著名な音楽家もいる。ゾルターン・コダーイやフランツ・リスト、ベーラ・バルトークなど綺羅星の如く多士済々である。近年はなぜか指揮者が多くないか。ゲオルグ・ショルティ、ユージン・オーマンディ、ジョージ・セル、フリッツ・ライナーほか。

なぜハンガリーが、これほど眩しいばかりの人材を世界に送り出したのだろうか。優秀な頭脳のほとんどがユダヤ人である。マジャール(ハンガリー民族)性とユダヤ性の混交が、20世紀ハンガリーの黄金時代を創ったのではないかという仮説が考えられるが、本書はその謎を解き明かしてくれる。

1867年のオーストリア・ハンガリー二重帝国の発足、そして1918年の第1次世界大戦による解体まで。東欧民族を支配する大国ハンガリーの首都ブタペストは、勃興するユダヤ人実業家のエネルギーとハプスブルグの黄昏に輝いていた。近代国家建設の要としてドイツの教育制度が移入され、教育立国への道を歩んだ。

ユダヤ人の裕福な家庭は教育に力を入れ、ギムナジウム(高等学校)卒業後はオーストリアやドイツへ子弟を留学させた。そこから生まれ育った科学者が、20世紀の科学と社会を動かした。辺境から中心が生まれる、新興民族が世界を動かすという歴史のダイナミズムがあったのだ。

ギムナジウムの教育に大きな力が注がれた。教師は生徒の知的好奇心をかきたて、単に教科書の知識を暗記させるのではなく、生徒自身が学び取るように情熱的にしむけていた。例えば数学の授業では、ハンガリーの数年間の小麦生産にかんする数字から、表を作成しグラフを描く。そこから小麦生産の変動を観察する。自分で相関を探し変化率を知ることで解析手法を理解する。実際的に、変化量の間に関係性があることを学び、同時に社会と経済力の変化に結びつくことを学ぶ。

◆『異星人伝説 20世紀を創ったハンガリー人』 マルクス・ジョルジュ著・盛田常夫編訳、日本評論社、2001/12

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