■ 『カガク力を強くする』 「疑う力」と「論理的に考える力」  (2019.8.20)





岩波ジュニア新書の一冊。中学生向けということか。タイトルの「カガク力」は「科学力」と表記した方がまぎらわしくないですね。内容的には一般新聞の科学欄のレベルだろうか。「シンギュラリティ」とかの難しい用語も出てくるがわかりやすい。著者は現役の新聞記者とのこと。

今、われわれの暮らしは科学に囲まれている。そして話題は多岐にわたっている ――AIとかDNA、ゲノム編集とか。科学にはそれぞれ、良い面と悪い面(光と影)がある。光ばかりに気を取られていないか。科学発展の負の歴史――地球温暖化やプラスティックごみ、原子力もそうだ。これらを見逃していないか。

われわれは科学の知識をすべて覚えることはできない。また、科学は部外者にとって急速にブラックボックス化している。だから、いま必要なのは、ブラックボックス化する膨大な情報の中から、必要な情報を適切に選び出すための最低限の常識。それに筋道を立てて考える力 ――著者はこれを「カガク力」と言っている。

「カガク力」とは、「疑う力」であり「論理的に考える力」である。おかしいと思ったら「ツッコむ力」であると。福島の原発事故はどうだったか。科学者の言うがままに安全性を盲信していたのではないか。人類の生命や文明を大きく変える技術が、新に登場し急速に普及していくなか、「ぼんやりしていたら、えらいことになるぞ」――とくに「カガク力」が必要だと著者は強調する。

いま、AIに仕事を奪われるのではないか、という危機感がある。野村総研の2015年の予想では、日本の就労人口の49%が従事している職業は、今後20年以内にAIによって代替される可能性があるという。学校教育も変革が求められるだろう。著者は「いま何が問題なのかを発見し、問題と向き合い、試行錯誤しながらさまざまな情報を組み合わせて、自分なりの解答を示ひねくり出す力」が必要という。このような力は、まだAIには無理だろうな。

福島の原発事故では、非常用発電機の大半が津波をかぶって故障してしまい、全電源喪失に陥った。メディアは、東電や政府は事態を小さく楽観的に伝えるだろうと疑っていた。事故の報道には、正常性バイアスと呼ばれる現象があり、人間は総じて物事を楽観的に受けちが、悪い情報を正直に発表するとはとうてい思えなかった。事実は、最悪の事態であるメ止める傾向があるからだ。さらに、原発は安全と唱えて全国に原発を造ってきた当事者たルトダウンが起きていたのだ。原発大事故を通して科学記者が学んだ最大のことは、科学はまだまだ未熟なものであり、それを取り扱う人間こそ未熟な存在である、ということ。


どうすればカガク力を身につけられるだろうか、著者の提案はつぎのようだ。
@まずは体験してみよう
プラネタリウムに行く、動物園・水族館・科学館など、科学体験。本屋、図書館など。
Aおもしろがること
『ざんねんないきもの事典』とか。なぜそうなのかは分からないけれどおもしろい。どうしてかな?という好奇心がわいてくる。
B分からないことは分からない
科学と名の付くものすべてが常に正しく、たった一つの答えを提示してくれるわけではない。例えば、「低線量被爆」が人体にどういう影響を与えるかという疑問。被爆と健康影響の関連が科学的・客観的に示されていれば余計な心配もいらないが、科学的に定まった見解がない現状では、現実を受け入れるしかない。分からない現実とどう向き合い、どう判断するか。難しい問題だ。
C分からないことが出てきても、あきらめずに科学の知識を動員して、よりましな判断をすること
D「絶対」はないと知ること
白衣を着た専門家が、こうしなさいと常に答えを出してくれるわけではない。誠実な科学者ほど断言を避ける傾向がある。


◆ 『カガク力を強くする!』元村有希子、岩波ジュニア新書、2019/7

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