■ 『介護入門』 第131回 芥川賞 受賞作 (2004.8.13)

文藝春秋 2004/9月号は第131回 芥川賞の発表である。実は、別の特集記事が目的だったのだが、とても芥川賞とは思えない題名にひかれて、受賞作『介護入門』(モブ・ノリオ著)を読んだ。まさかノウハウ満載の実用書というわけではないだろう。ついに出た介護小説とも。読後感は悪くなかったが。

饒舌体というのか、とにかくしゃべりまくる文体である。改行もしないで、切れ目なく文章が続く。ラップ(と言う?)のスタイルを模しているらしい。このスタイルは、いつまで続くのかもわからない、百年とも感じられる介護の日常を象徴しているようでもある。

章の切れ目ごとに、エピグラフ(題辞)というやつが差しはさまれる。石原慎太郎が評するように、確かにアイロニーも逆説も込められていない。真面目な「介護」注意書きとでも、一呼吸の役割は果たしているのだが、意図不明だ。

主人公=俺は、無職の自称《個人的な音楽家》。29歳の若者。マリファナ中毒者とある。頭は金髪に染めているらしい。どこから見ても、老人介護に携わっているという雰囲気はこれっぽっちもないだろう。下半身不随の祖母を自宅で介護する。昼はヘルパーに任せても、夜は祖母のベッドの隣の簡易ベッドに寝て、夜中に2、3回は起きて下の世話もする。

介護作業の描写は執拗である。電動モーターを操作してベッドを腰の位置まで上げる。祖母の体を巻くように抱いて起こす。腰を痛めない方法だ。講習を受けている。おむつをはずし、熱いタオルで体を拭いて、新のおむつに換える。著者モブ・ノリオには十分な経験があるようだ。マニュアルを読むような、正確かつ念入りな描写である。

ぶっきらぼうなセリフに隠れて家族愛がにじみ出てくる。そう読めば良いのかな。こんなもんじゃないよ!と怒り出す人もいるかも。


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