■ 『私のジョン万次郎』 子孫が明かす漂流の真実 (2015.8.8)








ジョン万次郎について、彼の人生を通覧するのは初めてである。波乱に富んだ骨太の生き様だなと感じた。ジョン万次郎は土佐の人。1827(文政10)年に生まれ、1898(明治31)年に没した。71年の生涯である。「英語とアメリカ文化をはじめて日本にもたらした日本人」と評される。万次郎が帰国後に話したアメリカのことなど外国見聞録として、『漂巽紀略』(ひょうそんきりゃく)の名で残されている。



万次郎は14歳の時、1841(天保12)年 1月、高知に近い港から漁に出る。伝蔵、重助、五右衛門、寅右衛門、それに万次郎の5人。船は3日目に突然の嵐に襲われ怒濤に木の葉のようにもまれる。櫓も折れて自由を失う。黒潮に押し流され、ようやく6日目に鳥島に漂着する。鳥島では過酷なサバイバル生活が続く。火打石を持たなかったので、まったく火を使うことができなかった。約5カ月後にアメリカの捕鯨船ジョン・ホーランド号(ホイットフィールド船長)に救助される。船はホノルルに寄港し5人は下船するが、万次郎はホイットフィールド船長とともにアメリカに行くことを決心する。

ホイットフィールド船長は航海中の万次郎の機敏な行動を見て、本国に連れ帰り教育したいと思った。万次郎も、もっと捕鯨のことを知り、日本に伝えたいと強く決意したのだろう。船長の好意に感謝し進んでアメリカ行きを承諾し4人と分かれてホノルルを出港する。船はそれから約1年半にわたって捕鯨を続ける。万次郎は船員たちに加わり捕鯨作業で働く。仲間からはジョン・マンと呼ばれ親しまれる。

アメリカに戻り船長 の家族に暖かく迎えられる。学校に行かせてもらい、ABCから学び上級学校へと進む。高等数学、航海術、測量術、捕鯨法などを習得する。常に優等の成績で頑張る。桶屋に年季奉公に出たあと、1846年(19歳)にはフランクリン号に乗り捕鯨に出る。3年4カ月の長い航海で様々な経験を積む。万次郎は地球を2周ほどしたことになる。1849年(22歳)。ゴールドラッシュでわくカリフォルニアの金山へ向かい、そこで帰国のための資金を稼ぐ。ホノルルに渡り仲間と再会するが、すでに重助は死亡。寅右衛門は大工として生活を立て妻もいるのでホノルルに残し、万次郎は伝蔵と五右衛門の3人での帰国をもくろむ。

3人の乗ったサラボイド号は1850年12月ホノルルを出港して上海に向かう。琉球沖でボートを降ろし薩摩藩の支配下にあった沖縄に上陸する。鎖国のため、琉球、鹿児島、長崎、高知と1年にわたる取り調べをうける。ようやく中の浜の故郷に帰り着き、母親と再会を果たしたのは、1852年11月のこと、漂流後すでに10年が経っていた。万次郎25歳。

おりしもペリーの黒船が江戸湾に現れる。1853年7月。来春再び来ることを言い残して立ち去る。幕府は来春の再来に備えて躍起となっていた。万次郎を江戸に呼び寄せ幕府直参にとりたてる。実際のペリー再来時(1854年)には、万次郎が通訳にあたることはなかった。幕府は万次郎が、アメリカに有利な通訳をするのではないかと疑っていたのである。条約文書など翻訳をしたようだ。

1954年7月、神奈川条約(日米和親条約)が締結され鎖国に終止符が打たれた。1858年7月には、日米修好通商条約が調印された。条約批准書交換のため日本使節がワシントンにポーハッタン号で行くことになり、咸臨丸が随伴し万次郎も乗り込むことに。英語だけでなく船の知識が大いに期待されたのだ。さらに、アメリカ測量艦のブルック艦長ほかが咸臨丸に乗り組む。1860年2月、咸臨丸は浦賀を出航するが太平洋横断は難航する。外洋の厳しさに日本人は全員船酔いになる。航海翌日からブルック以下アメリカ人の助けを借りる羽目に。万次郎はこの荒海で捕鯨時代につちかった航海技量を発揮する。

終生万次郎は捕鯨への執念をもやしていたという。箱館にアメリカ式捕鯨を実現しようと企てる。超大型で装備の整ったアメリカ捕鯨船をそっくり買いとることを考えたが、買収話は不調に終わる。その後もアメリカ式の導入を図るが、咸臨丸でのアメリカ行でなど、しばらく捕鯨から遠ざかったこともある。

<万次郎には2冊の著作がある>
(1)航海書『亜美理加合衆国航海学書』;ボーディッチの航海書の実用部分だけの日本語訳。日本における英語の最初の翻訳書。本文と数率表の2巻からなる。万次郎がアメリカの学校で実際に使っていたものを持ち帰り翻訳したもののようだ。
(2)英会話の本『英米対話捷径』;木版刷り。懐に入れるように2版目から小さくなっている。安否類、時候類、雑語類、往来音信類の4項目にわたる

◆ 『私のジョン万次郎 ――子孫が明かす漂流の真実』 中浜博、小学館ライブラリー、1994/10

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