■ 『ミミズと土』 ダーウィンの生涯をかけた研究 (2021.10.25)



ダーウィンの生涯をかけた研究テーマが、まさかミミズだったとは。ちょっと意表をつかれた。ダーウィンは、1837年にロンドン地質学協会に「土壌形成について」という論文を発表した。以来、ミミズの観察・研究をその後40年かかって完成させたのである。研究成果は、1881年に『ミミズの作用による肥沃土の形成およびミミズの習性の観察』として出版された。翌年にダーウィンは死去している。

いまやアスファルト・ジャングルともいわれる都会では土層さえ珍しい。農耕地ではたっぷりと農薬が散布される。ミミズはどこに住んでいるのだろう。本書を読むと、ミミズの忙しい働きぶりがいとおしくなる。
なお、ミミズの運動特性――蛇腹のように体を屈伸させて土中を前進する、には触れられていないのが残念である。あのスティーブン・J・グールドが解説を書いているのがまた興味深い。



肥沃土層の形成にミミズは大きな役割をはたしているのである。あらゆる地表面は、適度の湿度さえあれば、肥沃土が覆っている。肥沃土は一般に黒っぽく、一様な細かさをもつ土の粒子で構成される。

ミミズは世界中のあらゆる地域で見られる。遠く離れた島にも生息している。ミミズは食塩水の中ではすぐ死んでしまうのだが、幼体とか卵胞が鳥の脚について運ばれたということもありそうにない。成熟したミミズのからだは小さな剛毛のはえた100〜200のほぼ円筒形のリング、すなわち環節でできている。筋肉組織はよく発達していて、前進も後退もできる。しっぽの助けをかりて非常な早さでトンネルの中にもぐりこむこともできる。

口は体の先端にあり、ものをつかまえるための小さな突起がある。口の後方に咽頭があり、ものを食べるときに前に伸ばす。食道につづく砂のうは、あごや歯に相当するものを持たないミミズでは、食べたもののすりつぶしに働く。腸はからだの後端にある肛門までまっすぐに伸びる。ミミズは雑食性であり大量の土を呑み込み、消化できる物質をなんでも取り込んで排出する。目はないのだが、光に敏感である。固体の振動には極端に敏感である。全身が接触に敏感である。

ミミズは、どうやってトンネルをつくるのだろう。ミミズは土を呑み込んで、糞塊を出す。土の中に含まれている栄養物(有機物)を吸収する。腐葉土ではある程度の栄養が得られる。ほかに、生肉、脂肪、死んだネズミを好むようだ。普通の肥沃土には、たくさんの卵、幼虫、小さな生きもの、その死体、隠花植物の胞子などが含まれる。これらの種々の生きものたちは腐りきっているだろう。

ミミズは世界中の多くの地域で、地表に細かい土を持ち上げるという大きな仕事をしている。ミミズによって掘られたトンネルは、時間とともに崩壊する。ミミズによって排泄された細かい土が一様に広がるとしたら、多くの場所で1年に5分の1インチ(Xセンチ)の厚さの層を形成するはずだという。

1年間に排出された糞塊を一様にならしたとき形成される肥沃土層の厚さを考えてみよう。ミミズによって排出される糞塊の重さがわかるので、これを一様に広げたときに普通どのくらいの厚さの土壌になるか。概算すると、乾燥などの影響を修正し、厚さは0.09インチとなり10年間で0.9インチの厚さの層が形成されるようだ。

ミミズは、ほとんどの人々が考えるよりも、世界の歴史で重要な役割を果たしてきているのだ。湿潤な地域にミミズはたくさん生息しており、体の大きさの割に大きな筋肉力を持っている。イングランドの多くの地域では、それぞれ1エーカーの地表につき、乾重10トン(10.616キログラム)以上の重さの土が、年々ミミズの体を通過し運び出されていると試算できる。

ミミズは、細かい根を持つ植物の生育や芽生えの生育のために、素晴らしい方法で土地を用意する。ミミズは定期的に土を空気にさらし、ふるう。園芸家が最も大事にしている植物のために細かい土をつくるときのように、すべてのものをお互いによく混ぜ合わせるのだ。湿度を保って、すべての溶解性物質の吸着をよくする。死んだ動物の骨、昆虫のかたい部分、陸生貝類の殻、葉、小枝などは、ミミズの糞塊の下にすべてが埋められ、植物の根によって利用できる程度に腐った状態にされる。

鋤(すき)は人類が発明したものの中で、最も古く、最も価値あるものの一つである、しかし人類が出現するはるか以前から、土地はミミズによってきちんと耕やされつづけていたのだ。


◆ 『ミミズと土』チャールズ・ダーウィン著/渡辺弘之訳、平凡社ライブラリー、1994/6

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