■ 『意味がなければスイングはない』 村上春樹ワールドにどっぷり (2006.1.29)

書物と音楽は、僕の人生における2つの重要なキーワードという。まるで恋をするように音楽を聴くのだ、とも。うちにこもって、机の上にレコードやCDや資料を山と積み上げて、手間暇をかけて書いたそうだ。タイトルは、デューク・エリントンの名曲「スイングがなければ意味はない」のもじりである。


取り上げられている音楽家は、ジャズから、クラシック、そしてJポップまで(知らない人が多いんだけど)全部で11人ほど。たとえば、ジャズ・ピアニストのシダー・ウォルトン。「ジャズ界のショパン」とも称されるらしいのだが、こんな登場である。
――多くのジャズ・ファンの熱い注目を浴びるような機会は、これまでのところ一度もなかった。野球選手でいえば、パシフィック・リーグの下位チームで6番を打っている二塁手みたいなものだ。玄人筋ではそれなりに評価されてはいるのだろうが、なにしろ目立たない

あのビーチ・ボーイズを率いて、60年代サーフィン音楽ブームの立役者になったブライアン・ウィルソンについては、シューベルトのような、ナチュラルなタイプの音楽家だったという。

村上春樹ワールドにたっぷりとひたって、ゆったりとページをめくるのがよいだろう――小説はひとつも読んだことがないんだけど。

スガカシオって誰?SMAPの「夜空ノムコウ」の作詞を担当したというのだが。スガシカオの書く歌詞については、つまり「ま、こーゆーもんでしょ」みたいな、制度的なもたれかかり性が希薄である、ことが僕には感じられると。
――僕は車のハンドルを握って、……小田原−厚木道路のどこかに潜んでいるはずの覆面パトカーに怠りなく注意を払いながら、車内のスピーカーから流れるスガシカオの音楽の歌詞に、ついつい耳を澄ましてしまう

そして、日曜日の朝はフランシス・プーランクだ。
――気持ちの良い日曜日の朝に、大きな真空管アンプがあたたまるのを待ち(そのあいだに湯を沸かしてコーヒーでも作り)、それからおもむろにターンテーブルにプーランクのピアノ曲や歌曲のLPを載せる。こういうのはやはり、人生にとってのひとつの至福と言うべきだろう


◆『意味がなければスイングはない』 村上春樹著、文藝春秋社刊、2005/11


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