■ 『内部監査人室』 不祥事に内部監査は万能か (2005.2.19)

このところ企業の不祥事の報道が目につく。三菱ふそうのリコール事故隠し、NHKプロデューサーの裏金作り等々。再発防止として、責任者の発言で繰り返されるのは、「内部監査の体制をつくって、しっかりチェックします」とのことばである。「内部監査」はそれほど効力を発揮するものなのか。

内部監査とは、本書の定義によれば、「組織活動を把握し一定の基準(法令など)を基にそれを評価し、その結果を表明する活動」とされる。さらに、内部監査の狙いは、「再発防止と万一再発した場合の早期発見・早期対処のための仕組みの構築と定着」である。そうか!不具合が是正・改善されて、はじめて内部監査の目的が達成されるのだ。

内部監査がしっかりしていれば、不祥事は防げたのだろうか?著者は、不祥事は無くならないと言い切る。組織ぐるみの不祥事には、内部監査人は無力であると。会社方針の是非判断は監査役監査の分野である。

組織ぐるみの不祥事には、その根っこに「組織の常識が世間の常識とかけ離れている」ことがある。内部監査人は、不祥事への兆しに対して組織の中で一人でも反対の声を上げる風土を醸成していくことしかできない。不正を当然視する風土を改革し、組織内での常識を疑う勇気を作り出すことだ。不祥事を発見する内部監査ではなく、不祥事を発生させない活動こそ本当の内部監査活動である。

不祥事が発生したときに、企業がどのように対応したのかを見ると、非常に参考になると著者は言う。内部監査人にとっての反面教師であると――このあたりには著者の皮肉が十こめられていますね!
(1)発生(不祥事の存在)を認めない。内々で処理する、発生自体を隠す
(2)「知らない」「ない」でとおす
(3)時間稼ぎ・資料選択をする。「中間報告」といった形で無意味な報告を出す努力をする
(4)発表内容の表現に注意する。法令知識を駆使する――自己に都合の良い部分・解釈
のみを用いる。組織体責任者の責任には言及しない
(5)土下座の練習をする ……!!

もちろん実践に役立つノウハウも詰まっている。例えば第2部の勘定科目別の監査視点など、実際に監査チェックリストとして今すぐ活用できるほど充実している。現金・預金に関するもの、調達に関する相互統制とか。調達には要求・発注・検収があるが、これらを別部門・別人担当とすることが、いわゆる「三権分立」による相互牽制である。

問題はIT化への対応かな。これは今後の大きな課題だろう。IT化により業務内容が従来の手作業から大きく変化しているにもかかわらず、社規改定が未実施のままとなっている事例が多い。IT化によって従来の業務遂行手段の変化や内部牽制制度が無効になるなど業務環境が大きく変化しているから。


◆『内部監査人室 内部監査人のための実践読本』 阿久澤榮夫著、文芸社刊、2005/1

◆内部監査人室 のホームページは → こちら


読書ノートIndex2 / カテゴリIndex / Home