■ 『散歩とカツ丼 '10年版ベスト・エッセイ集』日本エッセイスト・クラブ編、文春文庫、2013/10   (2013.11.25)
    ――「リヨンのオペラハウスより」大野和士――





書店で文庫本の新刊をチェックすると、「散歩とカツ丼」の珍妙なタイトルが目についた。ベスト・エッセイ集とかで2010年版のよう。単行本は2010/8月に出版されている。パラパラと捲ってみると、大野和士の名前が思わず目に入ったので、みずてんで購入した。

リヨンのオペラハウスを話題としたエッセイが掲載されていた。大野和士は、2008/9月から、フランス国立リヨン歌劇場の首席指揮者をつとめているので、執筆時期は赴任してちょうど1年が経ったころか。

リヨンは古代ローマの植民都市。パリよりも地理的に近いイタリアとの取引で金融の中心街。18-19世紀には絹織物市場で世界を征した。リヨンの人々の誇りは高く、ややもすれば、閉鎖的な風土があるという。町の中心にリヨン国立歌劇場がある。

当劇場のモットーは、「オペラハウスを全ての人に開放する」とのことだ。地下には若い音楽家に演奏の機会を与えるスペースがある。音楽教育付きの託児システムもユニークだ。子どもを預かっている間に、親が見ているオペラと同じテーマの情操教育までやってしまおうという試み。たとえば、日本の雅楽「隅田川」に材をとったブリテンのオペラ公演では、子供たちに折り紙を教え、日本に触れさせるというもの。

さまざまな努力で、オペラ公演の観客が、25歳以下の割合が4分の1という、世代構成の若さを誇っているそうだ。アフリカからの移民や入院患者、自閉症児のワークショップなど、コミュニティを広げるために、音楽を届けに行くというのも試みもやっている。大野自身も日本で、子供病院や老人ホームへ出かけていき、ピアノで歌手の伴奏をし、解説をして、音楽を届けるコンサート企画を始めていますね。

大野和士は、2009年10〜11月、リヨンの国立歌劇場管弦楽団とともに日本ツァーで、マスネのオペラ《ウェルテル》を演奏会形式で上演した。また、最近のニュースでは、2014年7月には同じくリヨン歌劇場の引っ越し公演で《ホフマン物語》をやることが報じられている。


◆『散歩とカツ丼 '10年版ベスト・エッセイ集』 日本エッセイスト・クラブ編、文春文庫、2013/10


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