■ 大野和士のオペラ・レクチャー・コンサート 2014
    神奈川県立音楽堂 2014.11.4(火)





大野和士が達者なピアノを弾き、オペラの聴きどころを紹介するといったいつものスタイル。今回のテーマは《魔笛》と《フィデリオ》。例によってサービス精神がいっぱい。オペラ歌手そこのけのアクション付き。最後にはチェレスタ(グロッケンシュピール?)まで持ち出して《魔笛》のフィナーレとなった。

神奈川県立音楽堂は2014年11月で還暦とのこと。11/3〜9は記念週間としている。このレクチャーコンサートもその一環である。演奏会の終わりには、大野和士が伊藤館長を舞台上に招き、皆で「ハッピー・バースデイ」を歌って祝意を表した。


本日のテーマは、2つのオペラなのだが、なぜ《魔笛》と《フィデリオ》が選ばれているのだろう。大野によれば、ある研究論文に示唆されたとのことだ。それでは、モーツァルトの《魔笛》が初演された劇場スペースには、住居区域もあり、そこにベートーヴェンが住んでいた時期があったらしい。オペラ絶頂期にあったモーツァルトの音楽を、当時20歳台のベートーヴェンが毎夜のごとく漏れ聞いていたわけだ。

こんな因縁から《魔笛》と《フィデリオ》を取り上げたようだ。ベートーヴェンは、《コジファントゥッテ》とか《ドン・ジョヴァンニ》は、不道徳オペラとして認めなかったのだが。多くの音楽的財産を、モーツァルトから継承したという。なかでも、ヒューマニズムの要素が強いと。

大野は《魔笛》の第1幕のフィナーレからパパゲーノとパミーナの二重唱、「どんな勇敢な人も」を取り上げて解説した。。
こんな歌詞だ…どんな勇敢な人も、この鈴を見つけたならば
何の苦もなく追い払い、敵は逃げていくでしょう。
そして敵がいなくなれば、すばらしい調和の中で生きていけるでしょう!
友情のハーモニーだけが、不平不満を溶かしてくれる。
この共感がなければ、地上に幸せはないでしょう。

ここのメロディーは――「野バラ」を思い出させる。大野はここの和音の構造が、ベートーヴェンの第九の「歓喜の歌」につながっているのだと言う。ピアノを弾いて、その変貌ぶりを明らかにしてくれた。実証的な解説は説得力があり、なるほどと強く合点したのである。
このくだりだけでも本日のレクチャーコンサートに伺った価値がありましたね。

<追記> ボン時代のベートーヴェンは、当地で《後宮からの逃走》や《ドン・ジョヴァンニ》、《フィガロの結婚》が上演されたとき(1789-1790)、オケのヴィオラ奏者として加わっていたという。(平野昭著『ベートーヴェン』新潮文庫、昭和62/12)


<出演>
菅英三子(S)、林正子(S)、松田万美江(S)
立花正子(S)、菅原章代(S)
及川尚志(T)、清水徹太郎(T)、河野克典(B)、大沼徹(B)


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