■ 《ウェルテル》 鮮烈な現代劇の印象 (2007.12.21)

モネ劇場(ベルギー王立歌劇場)で、マスネー作曲《ウェルテル》を観た(2007.12.21)。

ベルギーの首都ブリュッセルの中心地グランプラス(世界遺産)では、クリスマスの飾り付けが進んでいた。夜のライトアップもどこか落ち着いた雰囲気で素敵。ホテル前のサブロン広場でも夜間のライトアップがあった。
モネ劇場前には、クリスマス時期だけとのことでメリーゴーランドが設けられてこちらも華やかな雰囲気である。

開演を前に続々と聴衆が座席を埋める。収容人員は1,150人とのことであるが、5階席まで埋まり満席だ。さすが、EU本部があるブリュッセルだけに、堂々とした風采の名士と思われる夫婦づれが目に付く。

確保された座席は舞台下手よりの2階のバルコニー席。カテゴリー2とのことである。ちょうどオケピットを俯瞰する位置。大野和士の指揮ぶりをじっくり観察できる。

幕開きは楽しげな子供たちのクリスマス合唱の練習シーンから始まって、最後にはクリスマスの夜に悲劇的な結末を迎えるというのが、この《ウェルテル》だ。
《ウェルテル》には、バリトンが主役を歌う版とテノール版とがあるそうだが、当夜はバリトン版だった。

舞台は、全面を鋭角的に2分割して左半分が室内を表すようにしている。
登場人物の服装と合わせて、どこかフェルメールの絵画を思わせるような雰囲気である。
この部屋には窓が大きく開いているのが、これが効果的な役割を果たしている。登場人物が出入りするときに心理的な演技を助けるようである。

第1幕 子供たちがクリスマスの歌の練習に励む。
シャルロッテとヴェルテルの出会い。
第2幕 結婚後3カ月。アルベールはシャルロッテに感謝の言葉。
ヴェルテルは悶々と悩む。

第3幕 長いシャルロッテのモノローグ。ウェルテルからの手紙に不安を感じる。
第4幕 クリスマスの夜。ウェルテルの自殺。駆けつけて絶望するシャルロッテ。
幕切れは一瞬の暗闇。

大野和士の振るオケは、冒頭の序曲からしてすごい緊張感に溢れている。
第3幕の終幕から切れ目なしに第4幕に移るあたりも、どこかワーグナーをも思わせるような痛切な響きである。この終幕では、大野は足を踏みならして、鋭くオケをドライブしたように聞こえたが。

ウェルテル役のバリトンが魅力ある歌いぷりだ。演技も迫真的。
シャルロッテも良かった。アルベールは演出上からどうしようもない人間として描かれていたのだろうか。

主役のヴェルテル、シャルロッテも大きな拍手を受けていたが、大野も温かい拍手を受けていた。思い切って、「オーノー」と叫んだら、臨席のブリュッセルの名士と思われる夫婦連れに、どこの誰?って感じで振り向かれてしまった。
我々のツァーだけでなく、かなりの日本人――それも若い女性を、かなり見受けた。

【出演】
指揮:大野和士
演出:Guy Joosten
ヴェルテル(Werther):Ludovic Tezier(バリトン)
シャルロッテ(Charlotte):Jennifer Larmore
ゾフィー(Sophie):Helene Guilmette
アルベール(Albert):Jean-Luc Chaignaud


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