■ 『黄金比はすべてを美しくするか?』 最も謎めいた比率 (2006.5.7)

黄金比とか、フィボナッチ数列とかが、身近に活躍しているにに気づかされる。またベンフォードの法則とは初耳であるが、こんな法則があるのか!と本当にびっくりする。 読み手の興味を引きつける語り口が巧みである。著者は、イスラエルで宇宙物理学の博士号を取得し、ハッブル宇宙望遠鏡のプロジェクトで科学部門のヘッドを務めた第一線の天文学者とのこと。

黄金比あるいは外中比とは、ユークリッドの定義はこうである。線分を単純に分割したときに「線分全体と長い切片との比が、長い切片と短い切片との比になる場合、線分は外中比=黄金比に切り分けられたという」。別の表現では、長方形の2辺の長さの比だ。長方形から短い辺を一辺とする正方形を除いてできる残りの長方形が初めの長方形と相似になるとき。黄金比――1.61803…は特殊な数、分数(あるいは有理数)で表せない無理数である。

黄金分割という言い方もありますね。四角形の縦と横の辺の長さの比率が1:1.618…のとき、もっとも調和のとれた黄金の四角形と言われる。アテネのパルテノン神殿の輪郭は黄金比長方形に近いそうだ。エジプトのピラミッドの寸法が黄金比にもとづくとも。しかし、本書では、これらの常識を疑っている。数のトリックと、測定の誤差を見過ごしていると。長さの測定誤差が、比の計算ではさらに大きな誤差を生むのだから。パルテノン神殿の調和と美しさはむしろ同じ柱の繰り返しが生み出す一定のリズムにあるのではないかとの説も紹介している。

フィボナッチ数列というのがある。各項がその前の2項の和に等しい数列だ―― 1、1、2、3、5、8、13、21、34、55、89、144、233 ……。このフィボナッチ数列が黄金比と深い関係にある。フィボナッチ数列が先へ進むにつれ、連続するふたつのフィボナッチ数の比は次第に黄金比に近づく性質がある。すなわち―― 1、2、3/2、5/3、8/5、13/8、……の極限値は黄金比(1.618……)と等しい。

フィボナッチ数は自然界のいたるところに顔を出す。ヒマワリが太陽に顔を向けるように。植物の葉は、日光や雨にさらされる面積ができるだけ大きくなるような配置をとる。枝が垂直に伸びると、ほぼ等間隔で葉が生えるが、葉は前の葉に真上には生えない。バラの花びらの対称的な配置も、黄金比にもとづいているという。花びらの配置の開度が、120度のように360度の「有理数」倍だとしたら、葉は半径方向に並んでしまう。ところが、黄金角のような(360度の「無理数」倍の)開度なら、芽は半径方向に並ばず、効率よくスペースを満たす。

ベンフォードの法則というのもびっくりする。「最上位桁の現象」ともいうそうだ。例えば、世界年鑑でアメリカ各州の農畜産物売買高を、かぞえてみると。全体の32パーセントで1が最上位の桁に現れ、2も19パーセントを占める。これに対し9は、5パーセントしか占めない。一見ランダムなデータが、どれも30数パーセントの数値は1で始まり、18パーセントほどが2で始まる性質をもつのだ!河川の流域面積とか野球の統計、雑誌の記事に登場する数値などといった膨大なデータで検証したそうだ。


◆『黄金比はすべてを美しくするか?――最も謎めいた「比率」をめぐる数学物語』マリオ・リヴィオ著、齊藤隆央訳、早川書房、2005/12


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