■ 『理系のための口頭発表術』 パワーポイントばかりに頼らず黒板も使ってみよう (2008.4.5)

科学研究の成果を発表する技術――「理系のための口頭発表術」は、いわゆるディベートとは違う。プレゼンテーションなどのノウハウとも異なる。論理的思考を繰り返し、知的興奮をかき立てる物語を作り上げる技術だと言える。優れた発表は熱意と努力と創造性の賜物。発表術は努力して習得する専門技能なのである。

米国では本書が実践的な教科書として、発表技術のトレーニングに利用されているようだ。著者はノースカロライナ州立大学の動物学/遺伝学の教授。全体は4章に分かれている――発表の準備・物語の構成・視覚素材・話し方の技術。まずは最後までざっと目を通してみよう。それぞれの章の最後には重要ポイントがコンパクトにまとまっているので、これを読むだけでも十分かも。

本書のテーマは聴衆を引きつけるためには20の原則があるという。重要ポイントを並べればこうだ。

発表は聴衆との対話である。聴衆が発表から何を知りたいかをず念頭におこう。そして、発表の準備に取りかかる前に、内容を数個のきちんとした文章にまとめてみよう。そうすることで、発表の主要ポイントと聴衆への「お土産メッセージ」にはっきりと焦点が合うだろう。

時間配分を考え発表をデザインすることも大切。「3分割の原則」がある。
@最初に<これから何の話をするのか>を話す。導入部であり、背景と展望を述べ、発表内容を理解するのに必要な予備知識を前もって与える役割。
A次に<そいつ>を話す。本題であり最も長い。聴衆に新たな情報を提供する核心部分だ。B最期に<いま何の話しをしたのか>を話す」。発表内容を一言でまとめること。

全体の構成では、はじめに展望を示すことが重要。演題が発表の全体展望になるだろう。簡潔かつ正確に発表内容を表わすこと。副題をつけて範囲を限定するのもよい。ズーム・イン手法で、核心テーマに迫ること。一般原理から始めて焦点を狭めてゆき、実験とその意義が理解できるところにもっていくのだ。重要な情報と周辺の情報をはっきりと分離し本筋を外さないようにしよう。原因と結果の関係を論理的に結びつけることが大切だ。

結論は簡潔に。最初の原理に立ち戻り関連を思い起こさせるように、ズームアウト手法を使う。強固で唯一の決定的な結論(お土産メッセージ)を示すこと。よく練った一言や、工夫された図1枚があれば問題はない。結論を述べたらただちに、さっぱりと幕を下ろすこと。

発表の主役は常に科学的メッセージ。視覚効果のやりすぎは邪魔者でしかない。図は視覚的に単純化し題名をつける。表の代わりにデータをグラフ化しよう。込み入った概念をわかりやすく伝えることは最大の難題だが、まずその概念を一連の単純化した要素へと分割し、次に基本要素から始めて徐々に複雑さを増してゆくなどの手順が考えられる。

黒板を使うのも効果的だ。発表者は歩き回って黒板に書き聴衆に話しかけることで、聴衆を能動的な参加者へと変えることができるのだ。

◆ 『理系のための口頭発表術 聴衆を魅了する20の原則』 ロバート・アンサホルト著・鈴木炎訳、講談社ブルーバックス、2008/1

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