■ 『論文の書き方』 名著再読。「が」を警戒しよう (2005.6.6)

いま手元にある本書の奥付を見ると、第1刷が1959年 (昭和34年) 3月、第60刷は1992年6月とある。もう半世紀近くも読み継がれている。清水幾太郎の名著だ。初めて本書を読んだとき、強く記憶に残ったのが、「が」を警戒しよう――「が」をやめよう――の一言である。いまもなお文章を書くたびに「が」の記憶がもどってくるほどの印象を受けた。

「が」は2つの句の関係が、プラスであろうとマイナスであろうと、それらを結びつけることができる。「彼は大いに勉強したが、落第した」とも書けるし、『彼は大いに勉強したが、合格した』とも書ける。AとBの間にどんな関係があろうとも、便利な「が」を持ち出せば、それがすべてを結んでくれる。著者は、この重宝な「が」を警戒するところから、文章の勉強が始まると言う。

「が」をやめたらどうだろう。「彼は大いに勉強したのに、落第した」「彼は大いに勉強したので、合格した」こう書き換えると、「が」で結んでいた時とは違って、2つの句の関係がクッキリと浮かび上がってくる。「のに」を使えば、大いに勉強したという事実と、落第したという事実とが、ハッキリした反対の関係に立つことになる。また、大いに勉強したという事実と、合格したという事実との間を「ので」――「結果」――で結べば、ひとつの因果関係が設定されることになる。

著者は言う。研究や認識があるからこそ、「が」を脱出して「のに」や「ので」へ進み出ることができる。文章とは、認識であり、行為である。「が」に頼っていては、文章は書けないと。

平凡な要素的な言葉を鋭く使おう。一つひとつの言葉をピカピカさせたり、それでビックリさせようとしたりするのはいけない。語順の根本的なルールとしては、句点の多い文章を書いた方がよいという。短い文を積み上げる方式だ。複雑な内容を正しく表現しようとすればするほど、一つ一つの文章は短くして、これをきっちり積み重ねて行かねばならないと。


◆『論文の書き方』 清水幾太郎、岩波新書、1959/3


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