■ 『錯覚の心理学』 2次元から3次元へ (2004.6.27)












←この絵は、アメリカの認知心理学者シェパードが考案した平行四辺形の錯視。2つのテーブルの卓面は形が違うように見えるが、実はまったく等しい形 (合同) とのこと。とても同一とは信じられない。見れば見るほど、一つの平行四辺形は縦長で、もう一方は幅広に見える。なにか人間の認知メカニズムに深く関わる要因がありそうだ。


絵に描かれて立体の物体に見えるところに錯視の原因があるとのことだ。卓上面が平行四辺形に描かれているが、この平行四辺形こそ奥行き感を与えるもっとも有効な描画法である。絵の中では平行四辺形は矩形であるという意味 (脳が認識する) ができているので、知覚的には垂直方向に伸びて見えることになる。

この例のように、幾何学的に合同な「ひし形」でさえ向きが変われば同じ形に見ることができない。絵の2次元図形を3次元世界へ復元しようとする力が目(脳)に働きかけるのだ。

われわれの視空間は歪んでいるという。上と下は区別がつきやすいが、左右は区別がつきにくいとのこと。8やSなど上下に同じ形が並ぶ文字が天地を反対に印刷されているのを見ると、その文字は逆さまであることがすぐにわかる。

視空間の歪みは、われわれの住む物理世界が重力の支配を受けているからである。物が落下すること、物が安定して立つことなど、生存にまつわるあれこれの光景に接して、われわれの祖先は、長い適応の過程で効率のよい知覚のメカニズムを装備してきた

とりわけ、人の顔を見ることは人間関係を営むために欠かせないので、視覚の基準の形成においても重要な要因だった。人が目覚めて活動的であるときは、重力方向と顔の方向が一致した状態であり、そのときこそ環境への適応の基本的な場面である。その状態に対応して脳はいろいろな装置を準備し整えてきたのだ。


◆ 『錯覚の心理学』 椎名健著、講談社現代新書、1995/1刊


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