■ 『センセイの書斎 イラストルポ本のある仕事場』 情報工場のノウハウ満載  (2011.1.11)

著者の内澤旬子さんは乳がん治療の克明なレポートで承知しているのだが、あらためてイラストルポライターという肩書きを知った。
本書でも精密感のあるイラストが何より特徴的だ。


他人の住まいぶりをのぞき見ることは悪趣味だろうか。他人の本棚をのぞくことほど楽しいことはない。どんな本が並んでいるのだろうと興味津々だ。
ふらりと知らない駅で 降りて、駅前の古本屋をチェックする楽しみに通じる。思いもよらない本に遭遇すること。

それと読者にとっては切実な問題がある。本はいつの間にか増殖し生活空間を浸食して行く。邪魔でバッチイとか、重くて床が抜けるとか、
常に家人から強いストレスを受けることになる。ほかの人はどうやって折り合いをつけているのだろうか。読者は理想的な書斎をいつも夢みているのだ。

スチールキャビネットが連立するスライド式の豪華書斎がある。これは幸せな本の置き場(書庫)だ。一方、本という媒体から情報を取り入れて、
それを再生産する――文章を書く、研究する、デザインを創りだす場としての書斎がある。情報工場とでも言ったらいい。

本書には、このような情報処理のベテラン(センセイ)の、効率的な情報工場をどうやって限られたスペースに実現するかという、
バリエーション豊かなノウハウが詰まっている。
もっとも過激なのは辛淑玉(シンスゴ)さんの例だ。「本は読み終わると、必要な部分だけ取っておいて、あとはびりびりと破いて捨てちゃう」とのこと。
ちぎられた本は封筒に入れられて本棚に項目別に並んでいる。

言わずもがなの注文だが、文庫本サイズでは精密なイラストを存分に楽しめないのが残念。


◆ 『センセイの書斎 イラストルポ「本」のある仕事場』 内澤旬子、河出文庫、2011/1

    HOME      読書ノートIndex     ≪≪ 前の読書ノートへ    次の読書ノートへ ≫≫