■ 『視覚の文法』 DNAに組み込まれた人類の歴史 (2004.8.16)



原著者ホフマンは、カリフォルニア大学でアルツハイマー型痴呆患者の視覚認識に関する研究を行っているそうだ。本書は、ビジュアル・インテリジェンス (VIと略記) について、最新の認知科学にもとづいて説明している。視覚は単なる受動的な知覚ではなく、能動的な構築作業をともなう知的プロセスであると。

ネッカー・キューブ (下図↓)というのがある。この図に触ってみると、平面だとわかるが、私たちには三次元の立体図に見える。もし立方体が見えたとすれば、触っても立方体として感じられるはずだ。しかし、このネッカー・キューブでは、視覚と触覚が矛盾する。

なぜネッカー・キューブを見たとき、三次元の立方体が見えるのか?それはVIが、平面の図から三次元の立方体を構築するからだという。日常生活のすべての場面において、目で見て奥行きを感じるときには、二次元の像から法則に従って三次元への構築が行われていると。


ネッカー・キューブを見たときに適用されるのは「安定性の法則」と呼ばれるもの。見えるチャンスが、確率的にもっとも安定的であると考えられるように解釈するというものだ。

他に数々の法則が並ぶ【法則1〜24】。【法則24】は「光源を頭上に配置する」というもの。人間は、単一の光源を仮定し、それを頭上に配置する。これは、毎日太陽を頭上に頂いている人間は、どんなちっぽけな図を見ても、その習慣から抜けきれないということであろう。

第4章「 無意識に形を把握する」は興味深い。認識−構築の過程では、さまざまな形を効果的に分割し、その各部分の形態と位置関係を把握する。人間は自分の知っている膨大な数の物体リストに照らし合わせ、一致するものが見つかるまで検索を行う。その部分から全体像を構築する。ちらりと見えた視点からその物体を認識しなければいけない。付近にトラがいることを見逃したとすれば、致命的な結果になることは間違いない。

結局、「視覚の文法」というのは、DNAに組み込まれた、人類(生物の歴史だ)が必死に蓄積してきた生存のための知恵の集合体なのだろう。危険な殺戮者をすばやく察知しなければ生き延びられなかったのだから。


◆ 『視覚の文法 脳が物を見る法則』 ドナルド・D.ホフマン著、原淳子・望月弘子訳、紀伊國屋書店、2003/3 Visual Intelligence How we create what we see


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