■ 『ソフトウエア企業の競争戦略』 プロセスを改革すること (2005.01.30)


東証1部上場のソフトウエア企業が突然、本年度の決算予想を下方に修正した。それも大幅な赤字に。原因は市場の価格低下圧力、不採算案件の増加とあった。市場が激しく変化することはIT業界では当たり前のこと。経営者には長期的戦略が要求される。

ソフトウエア企業は戦略をもたねばならず、その戦略を推進できる組織能力をもたなければならないと著者は主張する。ソフトウエアの開発プロセスは、ソフトウエア企業にとって大きな技術的課題である。しかし日本のコンピュータメーカーが採用している「ファクトリー・タイプ」のアプローチ――標準化された開発手法、厳格な品質保証手法、統計データを用いたプロジェクト管理手法など――はいまや立ち行かなくなっている。テンポの速い市場ニーズに対応するにはあまりに柔軟性に欠ける仕組みであると。

マイクロソフトは1990年代〜2000年代初めにかけて「同期安定化プロセス」ともいうべき開発方式を構築した。大規模なプロジェクトを機能ごとの小さなサブプロジェクトに分割し、メンバーが機能を定期的に追加していき、開発中の製品機能を安定化させる方法である。

「同期安定化プロセス」は開発目標書をつくることから始まる。新製品の目標と市場を定義し、個々の機能がサポートするユーザーと優先順位を書く。次に、製品とプロジェクトを、3、4の中間目標をもったサブプロジェクトに分割する。サブプロジェクトの機能チームは、各中間目標までに、開発、機能統合、ユーザビリティ(使い勝手)・テスト、統合テスト、デバッグ、安定化サイクルを実行する。さらに機能チームは、毎日・毎週の単位で製品をビルドし、エラーを探し修正して、作業内容を同期化する。

しかし、ソフトウエア・ファクトリーというコンセプトは、類似システムを複数バージョンつくる必要がある場合は、現在でもよく機能するものと思われる。例えば、家電製品、プリンタ、といった製品群への組み込みソフトの開発である。

著者は、ソフトウェア・ビジネスを3つのビジネスモデルに分類する。マイクロソフトやアドビのような「製品企業モデル」、プライスウォーターハウスクーパースやアクセンチュアのような「サービス企業モデル」、さらにピープルソフトやSAPのような「ハイブリッド・ソリューション・モデル」。

製品企業モデル」は収益のほとんどを新製品の販売で獲得する。「サービス企業モデル」の収益元は、ITコンサルティング、顧客向けのソフトウエア開発、システム・メンテナンスなどである。「ハイブリッド・ソリューション・モデル」では、売上高の80%がサービスやメンテナンスからのものである。製品とサービスの両方を売り、将来のサポート業務をもたらすようなアップグレードを行っている。

著者の考えでは、法人顧客向けのハイブリッド・ソリューションこそが、ヒット製品や支配的なプラットフォームをもたないソフトウエア企業にとって、現実的なゴールである。しかし、長期間にわたってうまくいっている会社は、自社を何度もつくり替えてきている。プロセスを改革してきている。IBMにしても、タビュレータからコンピュータ、ソフトウエア、サービスへ。マイクロソフトも同じだ。


◆ 『ソフトウエア企業の競争戦略』 マイケル・クスマノ著、ダイヤモンド社、2004/12


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