■ 堺利彦の『文章速達法』 真実を書け (2006.9.25)





この「速達法」といかにも実用重視をあらわす体の文章読本、山村修さんの著作『<狐>が選んだ入門書』で紹介されて知った。そこでは、この本が、いまなお実用書として十分に通用するというおどろきと共に、考えをまとめる方法として、すでにKJ法を提案していると喝破している。KJ法とは、堺利彦よりはるか後に文化人類学者の川喜田二郎がアイデアをまとめる手法として考案したものである。



……山村修さんは、かつて「日刊ゲンダイ」で<狐>のペンネームで書評を担当していたが、この8月に肺ガンで亡くなった。56歳。

堺利彦は明治から昭和にかけて名をはせた社会主義者。日露戦争に反対した幸徳秋水と共に、「平民新聞」を創刊。社会主義を信奉し非戦論を唱える。明治41年の赤旗事件で投獄された。明治43年に出獄した堺は、同志たちの生活の計として、売文社を設立する。文を売って口を糊すると。新聞、雑誌、書籍の原稿製作とか、英、仏、独、露等諸語の翻訳を広告に掲げる。女学校の卒業論文の代作や、選挙に打って出ようとする金満家の小伝まで様々だった。

『文章速達法』の原著が実業之世界社から刊行されたのは大正4年(1915)。わかりやすい文章を書かなければならないジャーナリストとしての体験と、この売文社の仕事として、種々雑多な実用文を手がけた経験が投影してのは間違いない。

堺利彦が冒頭から、繰り返し主張しているのは、ひとつは「真実を書け」。作文の第一の要件は真実を語ることである。うそを言わぬことである。自分の考えたこと、感じたこと、知っていることを、そのままに書き表すのが最もよき作文の方法であると。

ただ真実をいおう、ただ真実を書こうと、一心にそればかり勉めていれば、自然その間に自分の特色が現れて、その文章の全体において、またその一節一句の端々において、自分の考えなり、心持なり、意気込みなりが、必ずアリアリと浮かび上がってくる。

次に挙げているのが「腹案」。頭の中に詰っている思想や感情をありのままにさらけだすにしても、色々出し方に工夫をしないと、中々思うように出るものではない。腹案が必要だ。腹案を立てるとはつまり順序を立てることであると言う。正しい順序さえ立てば、一つの糸口からして、ありたけの糸がみなスルスルと出てしまうはずであると。

この『文章速達法』、Amazonなどで検索すると版元では品切れである。ユーズドの古本にしてもとんでもない高値が付いている。しかし、町の古本屋では探せばまだまだ在庫があるようだ。リーゾナブルな価格で手に入れることができる。


◆ 『<狐>が選んだ入門書』 山村修著、ちくま新書、2006/7刊
◆『文章速達法』堺利彦著、講談社学術文庫、昭和57年(1982)/12月刊


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