■『天文学者の虫眼鏡 』 マグデブルグの半球 (2025-10-12)




本書は古本屋で手に入れました。かなり以前(1999年)に出版されましたね。
科学エッセイ集でありカレント・トピックスを扱っているわけではないので古くても内容に問題はありません。
ただ、著者が意図したような、科学と文学との橋渡しを果たしたか否かはわかりません。著者は、あの名エッセイスト・池内先生の弟さんですね。

本書に惹きつけられたのは、なにより第1章に「マグデブルグの半球よ」があったからです。
一般書では普通数行で片付けられてしまう「マグデブルグの実験」が新書の複数ページにわたって詳述されているんです。



いわゆる「マグデブルグの半球」とは、ドイツのガリレイと呼ばれたオットー・フォン・ゲーリケが行った公開実験のこと。
ゲーリケは1654年当時マグデブルグ市の市長を務めていた。実験の目的は、空気の圧力がいかに巨大なものであるかをアピールするためである。

最初の実験では、直径1メートルの大きなシリンダーとピストンをもつ、注射器のようなものを用意した。
ゲーリケ本人が、空気ポンプでシリンダーに取り付けた栓から空気を抜いていった。するとピストンがシリンダー内部に引き込まれていく。
どんどん空気を抜いていくと、50人が一生懸命にロープを引っ張っても、ピストンはシリンダの中に押し込まれていった。
まず、空気の圧力の巨大さを人々に実感させたのだ。

次の実験が、皆がびっくりした本番である。
銅板製の半球を2個用意する。直径27センチくらい。ぴったり接合するように、縁に油を塗る。密着させた後、一方の半球の栓からポンプで空気を抜いていく。
半球のそれぞれに付けた環にロープを結わえて、左右8頭ずつの馬に引っ張らせたのだ。

ところが16頭の馬が全力で引っ張り合っても、2個の半球を引き離すことはできなかった。
馬の数を増やして、ようやく引き離せた。そのとき大砲を撃ったようなものすごい音がした。

日常の経験としては、熱い味噌汁のお椀に蓋をして、少し冷えた頃に蓋を取ろうとして引っ張ってもなかなか開かないことがありましたね。




◆ 『天文学者の虫眼鏡 ――文学と科学のあいだ』 池内了、文春新書、平成11年(1999)/9月

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