■ 『「縮み」志向の日本人』 ソトに目を開くこと (2011.12.6)



本書は、1982(昭和57)年に出版された。29年前のこと。すでに四半世紀を超えている。あらためて読み直してみると日本人の本質をぴたりとついていることに感心する。昔から日本人の意識の底には「縮み」志向があったのだ。細かくて緻密なものに、至高の「美しさ美」を発見したのだ。日本の高度成長を支えたのも、製品開発への「縮み」志向だった。ソニーのウォークマンなんてその代表選手だ。


一方で本書が指摘するように、「縮み」志向には不得意分野がある。木を見て森を見ずというか、細部にこだわるころ。海図のない広い世界に飛び出して、新しい航路切り開く力を西欧はもっている。日本は不得意だ。

「縮み」志向は、国内=ウチでは和になるが、世界=ソトの舞台で見れば閉鎖性になる。変化の激しい先の見えない現代。日本人の特質を再認識して、閉鎖性を打破することが求められるだろう。ここに本書を再読する価値がある。

「縮み」志向には6つの型があるという。入れ子型、扇子型、姉さま人形型、折詰め弁当型、能面型、紋章型、による分類は納得させられる。
(1)入れ子型――込める。広く使って小さく納める省スペースの知恵。
(2)扇子型――折畳む・握る・寄せる。何かを畳む発想。小型に作りながらも、より機能を高めること。日本商品の世界市場進出の突破口を開いたトランジスタ製品が代表。
(3)姉さま人形型――取る・削るという縮みの共通的な発想。
(4)折詰め弁当型――詰める。集団の枠に詰められて力を発揮する日本独特の団結力。
(5)能面型――構える。剣道、柔道、弓道……構えは、すべての動きを縮めた型。
(6)紋章型――紋章は集団のイメージで象徴物。武士は家紋にかけて戦う。

折詰め弁当はどうか。食膳を縮めて可動的なものにつくりあげるところに発想の原点がある。「詰める」には、さまざまな日本文化を育んだ力学が含まれている。集団の枠に詰められてはじめて、日本人は独特の団結力を発揮する。

「縮み」志向に代表される、日本人の本来的な特性は、ウチとソトで大きく変わる。ソトに出ると希薄になってしまう。例えば、ウチの家の床の間には、よく洗練された美が漂っているが、ソトの広い都市づくりには全体的な均衡も美もない。小さい虫の音を聞きわけて鑑賞する敏感な耳をもつ日本人でも、ソトの駅などで大きなスピーカーから吐き出される騒音には無神経なのだ。


◆『「縮み」志向の日本人』李御寧(イー・オリヨン)、講談社学術文庫、2007/4 (原本:学生社より1982年刊行)

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