■ 大野和士指揮 ワーグナー: 《トリスタンとイゾルデ》 (2010.12.25)

新国立劇場に大野和士の指揮する《トリスタンとイゾルデ》を観てきた。2010.12.25(土)

待ちかねた大野和士の《トリスタン》
公演初日でもあり会場にも独特の雰囲気があった。

期待を裏切らない素晴らしい公演であった。
これだけの大曲を構成・統合する力、オケを統率する力。
なにより、観客を大きくゆりうごかす力を強く感じた。




それにしても《トリスタン》はワグナーの中でも抜きんでた傑作!
大野の挑戦は足どりの確かなものであった

東フィルのガンバリぶりも特筆すべきものであった。
ほとんど破綻はなかったのではないか、緊張も最後まで途切れなかった。

舞台演出も印象的であった。舞台には終始、水が張られている。
大きな月がかかり、その姿が水面にきらめくのだ。
月は狂気を示すとか。一方、水は……。静と動、対比的でもある。

序曲はゆったりしたテンポで始まった。どこか手応えを確かめるような様子。
オケの緊張を保った静謐感が素晴らしい。

第1幕。分析的な演奏ではなかったか。心理学的演奏とでも言いたい。
静かではあるがオケが雄弁に語っている。
トリスタンとイゾルデの間に、既に相思の感情があることを、明らかにさせるような演奏である。
水面をすべる船の動きが2人の感情にマッチしている。

第2幕。一転して熱情的なほとばしり。大野の指揮も思い切ったものではなかったか。
舞台中央に屹立する大樹は、あきらかに△△のイメージを想起させたのだが。

第3幕。冒頭の低音は、今まで新国立のピットからは聞いたことがなかった深々としたものである。
舞台上に大きくかかる月――トリスタンの感情の起伏にしたがって色合いが変わり、た時間の経過とともに移動する。
終幕のイゾルデの愛の死へでは、ついに月は地平線の下に沈み込む。
イゾルデを歌うイレーネ・テオリンは、ここでガソリン切れの様相。声がしっかり通らない。残念。
最後のピアニシモまで、オケの響きは浸透力があった。

さすがにトリスタンのステファン・グールドは余裕のある歌いぶり。
トリスタンの高貴さをよく出していた。
ブランゲーネのエレナ・ツィトコーワは良いのだが、どこか場違いな印象があった。

初日のせいか、演技面では、なかなか未だこなれていないと思わせる個所があった。
第1幕、2人が媚薬を飲みほすと盃を放りだし直ちにトランス状態に入ったが。ちょっと違和感があった。やはり、一瞬の間が必要だと思う。


<出演>
指揮:大野和士
演出:デイヴィッド・マクヴィカー

トリスタン:ステファン・グールド
マルケ王:ギド・イェンティンス
イゾルデ:イレーネ・テオリン
クルヴェナール:ユッカ・ラジライネン
メロート:星野淳
ブランゲーネ:エレナ・ツィトコーワ

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団


■今年の初コンサート:新国立で大野和士の《トリスタンとイゾルデ》 (2011.1.4)

初日(2010.12/25)に続いて、新国立で《トリスタンとイゾルデ》を観てきた。
今日は、皇太子殿下がご来場され全3幕を鑑賞されたようである。

大野和士の指揮は、初日にはやや手探り的な面が感じられたのだが、
今日は確信的な指揮ぶりになってきたな、との印象を受けた。
精密度も格段にアップしたのでは。第2幕の官能度なんかは十倍アップしたかに感じた。

客席は4階なのでオケ・歌声ともによく通る。
トリスタン、イゾルデともに歌唱は万全。終幕までしっかり声が伝わった。
ブランゲーネには今回は好感をもった。スムーズな歌唱だ。

オーケストラについて、一部のインターネットではボロボロの評価であるが、
個人的な評価は悪くない。大きな傷はなかったと思う。かなり頑張った印象である。
もちろん、一層の充実があればいいなと感じた個所はある。
例えば第2幕の2人の静かな二重唱のバックのオーボエなど、もっと深みのある響きが欲しいとか。

演出面も練り込まれてきたようだ。歌手の演技もスムーズである。第3幕のイゾルデの登場など、黒のマントから深紅の衣装への転換など
見事な効果を発揮した。
第1幕冒頭、船が回転する際にどこかにセットがぶつかるのか、ギシギシとかなり大きなきしみ音を発したのは不気味であった。

やはり半裸の十数人の海賊連中は中途半端だ。演出の意図が伝わってこない。
水のなかでバシャバシャやる意味があるのか。


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