■ 東京リング第2夜 《ワルキューレ》 幕切れは涙腺がゆるむ (2009.4.6)




ワグナー作曲:楽劇《ワルキューレ》
新国立劇場のマチネーに行ってきた 2009.4.6(月)

途中2回の休憩(それぞれ45分、30分)を挟むものの5時間を超える長丁場である。
しかし公演にはまったく長さを感じなかった。

東フィルがこれほど頑張った演奏を聴くのは久しぶり。とくに弦合奏には気力がみなぎっていたのではないか。
もちろん指揮のエッティンガーの統率力があったのだろう。登場人物の感情のヒダにぴったりと寄り添うような指揮ぶりである。必然的にテンポは遅くなる。ときに止まってしまうのではと思わせるほど。先の《ラインの黄金》とは見違えるばかりである。

この《ワルキューレ》は、4部作のなかでもっとも人間的ドラマとの印象がある。
第1幕のジークムント、ジークリンデの再会から愛の芽生えとか。第2幕ウォータンとフリッカの夫婦げんかを思わせる下世話なシーンとか。最終幕切れの、父が娘を思いやる場面など。このあたり、エッティンガーの特質にぴったりなのかな。

原色がキラキラするし、とてつもなく巨大な矢印が天井からつり下がっているとか。
アイデアいっぱいの舞台であるが、そんなにドラマと遊離しているとは思えない。抵抗感がなかったのは不思議だ。
第2幕なんて、冒頭ウォータンの居室と思われる、段ボール箱が雑然と積みあげられたコーナー。ウォータンの心境にはぴったりである。そこで映画を投影して回想場面に入るとか。

ちょっとしたユーモアも面白い。第1幕。「君こそは春」が始まると、突然部屋の床から緑の矢印が飛び出すのだが。これは何? 第2幕では、ブリュンヒルデが幼稚園児が乗るような木馬で登場する。ワルキューレの騎行では看護婦がドアを蹴破るとか!
それに登場セットにいちいち看板が付いているのは? ワルハラ救急病院とか。最終幕の巨大な木馬では脇にグラーネとの看板が建っているが。言われなくても分かります!

やっぱり最後のウォータンの別れでは、涙腺がゆるんでしまった。
病院のセットがゆっくりと舞台奥に引っ込み、代わって地下から馬のセットがせり出してくる。新国立劇場の舞台メカニズムを存分に活用していた。
ブリュンヒルデは、ベッドの上で、炎に包まれて眠りにつく。壮大な幕切れである。

歌手ではジークリンデのマルティーナ・セラフィンに拍手です。


<キャスト>
ジークムント:エンドリック・ヴォトリッヒ
ジークリンデ:マルティーナ・セラフィン
フンディング:クルト・リドル
ヴォータン:ユッカ・ラジライネン
ブリュンヒルデ:ユディット・ネーメット
フリッカ:エレナ・ツィトコーワ
ワルキューレ:高橋知子、増田のり子、大林智子、三輪陽子、平井香織、増田弥生、清水華澄、山下牧子

指揮:ダン・エッティンガー
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
演出:キース・ウォーナー


【東京リング:ニーベルングの指環】 公演一覧

序夜    《ラインの黄金》  2009.03.18
第1夜  《ワルキューレ》  2009.04.06
第2夜  《ジークフリート》 2010.02.11
最終夜 《神々の黄昏》   2010.03.31

【前回公演】→こちら  《ジークフリート》 2003.4.1、《神々の黄昏》 2004.4.3


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