■ 『イエスの遺伝子』 遺伝子スリラーの傑作 (2004.10.9)

「遺伝子スリラー」というのか、近未来のSFである。原著は1997年の刊行。ディズニーが映画化権を獲得したとの話があったそうだが。粗筋はこうだ。

遺伝学者トム・カーターは、人間の設計図とともいえる遺伝子の内容をすべて解読する画期的装置――ジーン・スコープ――を発明する。コンピュータと顕微鏡を合体させた装置で、体細胞の染色体からDNAをじかに読みとることができるというものだ。

カーターは、ノーベル賞受賞式の当日、何者かによって狙撃される。狙撃は阻止され弾丸は彼の妻を撃ち抜く。銃撃のあと頭の傷を調べたことから妻に腫瘍があったことがわかる。母を癌で亡くしていたカーターは、娘の遺伝子を自らが開発したジーン・スコープで調べる。

ジーン・スコープは、わずか数秒で遺伝情報をすべて解読し、娘の寿命を確定したのだった。ゲノムに遺伝的欠陥があり、いずれ脳腫瘍を発症する危険があるという。余命1年であると告げる。

治療法はあるのか。遺伝子治療が考えられるが、いまだ効果的な成果は上げていない。奇蹟の治癒能力を期待するしかないのか…………

全編を一気に読み通せずにはいられない吸引力があった。前半の現実感あふれるスピーディな展開にくらべ、後半のイエスが登場するあたりから、話はおとぎ話の匂いが強くなる。狙撃者の遺伝子を調べデータベースと照合するくだりも、予想されてしまう。

遺伝子を読み取り、その情報から被験者の外見を推定するという「ジーン・ジニー」というソフトウェアが出てくる。DNAからさまざまな身体的特徴を導き出す。肌や髪や目の色、人種タイプとか、おおよその身長や体格も。さらに、目撃者の証言からコンピュータでモンタージュ写真を作成するという手法を応用して、対象となる人物の遺伝子から完全な三次元ホログラムを作成するというものだ。ごく普通の食事と運動を考慮に入れた標準的なライフスタイルを基礎にするという。
ジーン・ジニーは、そんなにも荒唐無稽な話とは思えない。


◆『イエスの遺伝子』 マイクル・コーディ著、内田昌之訳、徳間書店、1998/3刊


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