■東電福島第1原発事故について、福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)の調査結果が2/28公表された。(2012.2.28)

毎日新聞によれば、事故調は、事故直後の政府対応について「官邸主導による現場への過剰介入があった」と批判し、菅直人前首相について「(政治家が細部に口を出す)マイクロマネジメントに走り、危機管理の取り組みとして不合格だった」と酷評したそうだ。 個人攻撃のような印象があるのは残念だが、想定外の未曾有の事故に直面した際の危機管理の重大さに言及している。

突発事故での危機管理の重要性を強く印象づけるものとして、「アポロ13号の事故」を忘れることができない。このドキュメントは、新潮文庫『アポロ13号 奇跡の生還』(立花隆訳、1998/7刊)で読める。トム・ハンクスの主演で映画化もされている。

この本『アポロ13号 奇跡の生還』のまえがきで、訳者の立花隆は、こう書いている。
アポロ11号の成功より、アポロ13号の失敗のほうが、アメリカの宇宙技術のすごさを示している。日本には、技術力だけでなく、アポロ計画のようなビッグ・プロジェクトのマネジメント能力もなければ、まして、アポロ13号で起きたようなとてつもない危機に対応する危機管理能力もない。このようなマネジメント能力において決定的に立ち遅れている。

アポロ13号の事故は1970年、既に42年前のことだ!


■ 『アポロ13号奇跡の生還』 危機管理能力とチェックリスト (2004.6.7)



月面着陸のミッションを負ったアポロ13号は、地球から30数万キロの宇宙空間――ほとんど月の直前――で突然の爆発事故を起こす。2基の酸素タンクが2つともだめになってしまった。3基の燃料電池も2つがだめになり、2つあった電力供給ラインの1つが死んでしまった。

エネルギー源がなくなり、水も供給されなくなる。酸素なし、水なし、エネルギーなしで、零下100度以下の超低温空間で、3人の宇宙飛行士はどうやって生き抜くのか。様々に試みた復元策も役にたたない、想像もつかない深刻な事態であった。

宇宙飛行士は、司令船から月面着陸船に移動する。着陸船がいわば救命ボートとしての役割を果たすことになる。しかし、着陸船は3人もの飛行士が何日も乗り組むようには設計されていない。飛行士たちの吐き出す二酸化炭素をいかにして捨てるかという重大な問題もあった。結局飛行士たちは、地上からの指示に基づいて、あり合わせの材料で空気清浄機を製作するはめになるのだが。

爆発で失われた、酸素・水・電力・燃料の残量を計算し、月を周回して地球に戻るように軌道のずれを修正する。地上の管制官スタッフは綿密なシミュレーションを繰り返す。最後に司令船に戻り救命ボートの役割を終えた月面着陸船を切り離す。一番の問題は、地球に再突入する手順である。

着水まで18時間を切ったとき、チェックリストの読み上げが始められた。支援船切り離し、着陸船の切り離し等々。再突入のチェックリストは、飛行士たちにとって地球に帰るための唯一のパスポートだ。一人の担当分の読み上げには2時間かかった。疲労の極にある飛行士たちが、まちがいなくチェックリストを書き写すことが必要だった。1行1行ゆっくり読み、終わるごとに復唱した。

確かに、立花隆が言うように、アポロ11号の成功よりもアポロ13号の失敗のほうが、アメリカの宇宙技術のすごさを示していると思う。このような失敗に対応できるだけの技術力を持っていればこそ、アポロ11号の成功があったと。危機管理能力のすごさでもある。

もうひとつ、忘れられないのは、チェックリスト(手順書) の重要性ことばによる表現の問題である。たとば、着陸船のなかで空気清浄機を自作するシーン。いままで誰もみたことのないものの作り方を、無線を通じて、ことばだけで説明したのである。簡単な仕事ではなかったはずだ。

「さて、ではテープを3フィート、つまり、腕の長さぐらいに切る。これが2本必要だ」という調子で。地上の技術者たちは、「30インチ」と「2、3フィート」と「腕くらいの長さ」のどの表現が適切か悩んだあげく、2つの言い方を採用することにしたという。


◆ 『アポロ13号奇跡の生還』 ヘンリー・クーパー著、立花隆訳、新潮文庫、1998/10


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