■ ドラッカーはオペラが好き 〜『プロフェッショナルの条件』を読む ( 2000.11.3)



ドラッカーの『プロフェッショナルの条件』がビジネス書のベストセラーのトップを走っている。腰巻きには、「どうすれば一流の仕事ができるか。ドラッカーの教える知的生産性向上と自己実現の秘けつ」とある。この大著を斜めに読んでみようと思う。オペラとの接点がはっきりと浮かんでくるのである。

ドラッカーは言う。成果をあげるための秘訣は集中であると。3つの仕事を同時に抱えて卓越した成果をあげる人はいない。「組織で働く者がモーツァルトになることは至難である」。承知のようにモーツァルトはいくつかの曲を同時に進めた。バッハは多作であったが、一度に一曲しか作らなかった。

ドラッカーはウィーンに生まれた。高校を卒業した後、ハンブルグで綿製品の商社の見習いとして社会人としてスタート。しかし仕事は退屈であった。鬱々とした日々に、週1回はオペラを聴きにいった。そんなある夜、ヴェルディのオペラ 《ファルスタッフ》 に一生忘れられないという衝撃を受けた。《ファルスタッフ》はシェイクスピアの《ウィンザーの陽気な女房たち》を元にした明るい喜劇。80歳の作品である。ベートーヴェンの《英雄》やワーグナーの楽劇のように、とても若者の心を根底から揺り動かすような音楽ではない。

ドラッカーはオペラ作品そのものにももちろん感動したのだが、作曲家ヴェルディの生き方により強く啓発的な衝撃を受けたのである。Part3の 「私の人生を変えた7つの経験」で次のように述べている。

80歳という年齢で、なぜ並はずれてむずかしいオペラをもう1曲書くという大変な仕事に取り組んだのかとの問いに答えた彼の言葉を知った。「いつも失敗してきた。だから、もう一度挑戦する必要があった」。私はこの言葉を忘れたことがない。一生の仕事が何になろうとも、ヴェルディのその言葉を道しるべにしようと決心した。

目標とビジョンをもって行動する――ヴェルディの教訓

1909年生まれのドラッカーは既にして91歳。ヴェルディの年齢を超えている。知的生産活動にはまったく衰えが感じられない。


◆ 『プロフェッショナルの条件 ――いかに成果をあげ、成長するか――』 ドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社、2000/6

◆ドラッカー :Peter Ferdinand Drucker (1909― ) アメリカの経営学者。オーストリア生まれ。ハンブルク大学およびフランクフルト大学に学んだが、ナチスへの不信から渡英、保険会社の顧問などを務めたのち、さらに新天地を求めて1937年渡米。『経済人の終り』(1939)、『産業にたずさわる人の未来』(1942)、『会社という概念』(1946)の著作によって有名になり、『現代の経営』(1954)において不動の地位を築いた。経営コンサルタントとして活躍する一方、42年ベニントン大学教授、50年ニューヨーク大学教授、71年クレアモント大学教授となる。現代を大量生産原理に立脚した高度産業社会としてとらえ、そのなかで社会的制度としての企業の本質を理解し、それに即した経営管理のあり方を展開した。(『世界大百科全書』から)



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