■ 芸術ジャーナル 音楽時評 《はるかなる響き》 (2000.2.11)


2000年2月6日のNHK-FM 「芸術ジャーナル 音楽時評」は、音楽評論家 礒山 雅さんと東京大学助教授 長木 誠司さんの対談でした。後半の話題は、1/27の《はるかなる響き》。両氏のホームページから、内容を要約してみました。本文はそれぞれのホームページを読んで下さい。

<蛇足> 礒山 雅さんのホームページ 「I教授の家」には、つい長逗留してしまいます


■ 礒山 雅(いそやま・ただし)さん 音楽評論家
(I教授の家 http://www.asahi-net.or.jp/~tx3t-isym/)


大オーケストラが精緻な手法で駆使され、いかにも世紀末的な、ものに憑かれたかのようなトーンで、音楽が進んでゆきます。舞踏会、歌比べ、自然における春の目覚めなど、趣向も豊か。音楽史の知られざる部分にこうした大作が存在していたことを知り、驚きました。

それを、オーケストラの定期の一環としてとりあげるというのがすごい。あの忙しい東フィルが、この誰も知らない至難の大曲を充分にこなし、きめ細かく清潔な演奏を繰り広げています。誰かが旗を振らなくてはこうした企画は実現しないわけですから、旗を振り、スコアを極め、力強く牽引した大野和士さんをたたえたいと思います。見事な企画と実行力に、脱帽!

なにしろ、ソリストだけで20人(プラス、東京オペラ・シンガーズの合唱)。おそらく、ほとんどの歌手が初めてのはずです。岩井理花(グレーテ)、吉田浩之(フリッツ)以下、みんながんばっていましたが、ステージ上の大オーケストラに負けそうになることは仕方ないとしても、やはり経験を積まなければ本当には歌いこなせない、むずかしい役柄ばかりです。先につながることを祈りたいと思います。ここでは、声のピーンと通っていた騎士役の井上幸一さん(テノール)と、ドイツ語がよくわかったルドルフ役の山口俊彦さん(バス)の名を挙げておきましょう。



■ 長木 誠司(ちょうき・せいじ)さん 東京大学助教授 (表象文化論)
(http://www.urawa.cabletv.ne.jp/users/u2140771/sub3-1-5.htm)

早くも、今年前半の聴きものです。シュレーカーのオペラ、はじめての日本での上演。大野和士さん、ドイツ、カールスルーエのGMDにふさわしい、レパートリーの現状に目配りのよいプログラムです。ドイツ語圏では、ちょっとシュレーカー・ブームも下火になりましたが、日本ではこれが火付け役になるかも知れない。

あえてきびしく書いておくと、今回の演奏、オーケストラはすばらしかったですが、歌手がやはり長丁場をよく練習できてなかったですね。

作曲家フリッツ役の吉田浩之さんも大健闘ですね。ヴァーグナーばりのオーケストラ(それも舞台上に載った)に対抗するのは、少なくともこの作品の場合、男声の方が過酷で、大野さんもだいぶ音量を抑えていましたが(だから、楽員も聴き手もある種のフラストレーションを免れない)、それでも分厚い音から歌詞を聴き取るのは、多くの場面で難しかった。舞台上演で、オケがピットに入れば、ある程度解消する問題でもありますが...。で、吉田さんは、ちょっとしたフリも付けて、少し余裕があったけれど、第2幕以降は声が疲れていたように思います。でも、全体的に歌手陣は粒ぞろいですね。これでこそできる日本初演ではあったでしょう。二期会とか藤原、といった組織のしがらみから自由に歌手が選ばれるので、日本の実力上のトップ・クラスが集まるのは壮観ですし。

 オーケストラは、限られたダイナミクスのなかですばらしい音だったと思います。東フィルのつねで、弦部が薄いのは仕方ないけれど、でもシュレーカー特有のフワっとした感触とかには向いているかも知れないし、全体のバランスはどっしりしており、少なくとも先のキーロフよりずっと「ドイツ的」。金管の吹奏など、音が実にきれいにハモるようになりましたね、東フィルも。




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