■ 『困ったときの情報整理』 (2001.7.28)

文春新書から東谷暁の書いた『困ったときの情報整理』を読んだ。きわもの的な書名であるが、内容は正統的である。著者は5つの出版社を渡り歩いた編集のベテラン。アスキー時代には、パソコンやシステム手帳のノウハウを徹夜で書きまくっていたとのこと。編集者の経験――締め切りに厳しく制約される――を反映した実戦的なノウハウが詰まっている。

とにかく、第1章は 「すべては時間に制約される」なのである。本を読むにしても忙しい、「目次を何度も見て、序文と結論を先に読み、必要な部分の見当をつける」とある。もちろんパソコン、インターネットの活用にも言及しているわけだが、意外と慎重な対処である。インターネットにしても、事情がわからないままに見つけた情報が、正しいのか間違っているのか判断するのは非常に難しい、と言う。

本書の目的は、「ふつうの人が、一生のうちに数度しか試みないような、あるいは1年に何度か書かねばならない類の論文やリポートや企画書を、短時間で作成するために最低限必要な方法について、手っ取り早く述べてみたい」とする。そして、2つだけ念頭におくことと言う。ひとつは「あなたの作業には期限がある」、もうひとつが「あなたの能力には限りがある」こと。また本書は、それぞれの章の終わりに【この章のまとめ】があって、親切である。ここだけ拾い読みしても良いだろう。

第1章は 「すべては時間に制約される」。
この章に本書のエッセンスは集約されている。著者は、「知的生産」とか「情報整理」といわれるもののすべてとしている。確かに、「あなたの作業には期限がある」とした視点は切実で実感がある。今までの、「知的……」とか「……整理術」などの類書にはこの視点は欠けていた。目を開かれる思いだ。

まず冒頭のメッセージは、「期限のない仕事は存在しない」、その後のキーワードを並べてみる。
・作業の期限を厳しく切れ
・自分の能力には限界がある。
・2日で1日分の作業をすべし
・時間というものは「資源」である

いわば「時間の管理」であろう。これは本書で何回も繰り返されるテーマ。スケジュールを書きこんで全体を見通すことが大切とする。時間の配分が作業の成否を決める。書き込みができて一覧性のあるカレンダーがいちばん便利とのこと。

第2章は、「知識は詰めこまねばならない」。
時間も能力も限定されている場合の読書法である。最初の情報源としては「本」がいちばんよいと言う。
・集中するためには、本には線を引いたり感想を記入しながら読むこと。
ノートを作るつもりで資料に書き込む。ポストイットを使うのも効果がある。
・気迫をもって読めばかなりの速読が可能になる。速読術は不要である。

続いて、実戦的なテーマが並ぶ。
第3章 雑誌という情報ジャンル
第4章 パソコンで出来る情報収集
第5章 パソコンで出来ない情報収集
第6章 アイディアは何処から来るか
第7章 ワープロソフトでものを書く

第8章 情報の迷路を抜け出す
ここでは情報整理時のトラブルをパターン化して列挙している。出来上がった論文なり企画書を、もう一度見直す時に有用であろう。
(1)論理的に考えたつもりが、まったく論理的でないというトラブル
(2)因果関係をあまりに重視してしまうために生まれるトラブル
(3)論じているのは部分なのに、その部分についての情報を全体に適用できると考えて生じるトラブル
(4)自分がどのような方法を採用しているのか無自覚なために、レベルの異なることを混在させるトラブル
(5)ステレオ・タイプで論じているのに、そのことに気がつかないトラブル

最後の付録は、[ 先人の「失敗」から学ぶ「情報整理史」]である。「失敗」から学ぶ、としたところに筆者の皮肉な視線を感じた。いわゆる知的生産とか情報整理の定番本が年代順に挙げられ、簡潔にそれぞれの内容が紹介されているので、もう一度読み直して見ようと思う人もいるだろう。

・梅棹忠夫『知的生産の技術』(岩波新書)
・加藤秀俊『整理学』(中公新書)
・川喜田二郎『発想法』(中公新書)
・立花隆『「知」のソフトウェア』(講談社現代新書)
・渡辺昇一『知的生活の方法』(講談社現代新書)
・板坂元『考える技術・書く技術』(講談社現代新書)
・山根一眞『スーパー書斎の仕事術』(アスキー)
・西尾忠久『ワープロ書斎術』(講談社現代新書)
・山根一眞『スーパー手帳の仕事術』(ダイヤモンド社)
・野口悠紀雄『「超」整理法』(中公新書)
・中野不二男『メモの技術』(新潮選書)


◆『困ったときの情報整理』 東谷暁著、文春新書、2001/7
東谷暁(ひがしたに・さとし) 1953(昭和28)年、山形県生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、『季刊民俗学』編集部を経てアスキーでパソコン雑誌などの編集に従事。さらに『ザ・ビッグマン』『発言者』編集長を歴任したのちフリーランスのジャーナリストとなる。著書に『日本経済「常識のウソ」』『BIS規制の嘘』『経済再生は日本流でいこう』『IT革命?そんなものはない』など。


読書ノートIndex1 / カテゴリIndex / Home