■ 裏から聞いた 《涅槃交響曲》 (2003.3.9)

東京フィルハーモニー交響楽団 第671回定期演奏会は《黛敏郎 プログラム》。2003年2月26日(水) サントリーホールにて。

・ トーンプレロマス '55(1955)
・ 饗宴(1954)
・ BUGAKU(1962)
涅槃交響曲(1958)

指揮:岩城宏之 合唱:東京混声合唱団、栗友会合唱団

裏からオーケストラを聞くとは、サントリーホールのP席は初めての経験。バランス感覚がまったく狂ってしまう。打楽器が真ん前に並ぶ。チューブラーベルとか、名前はわからないが「パチンと鳴る」やつとか、ドラ、ピアノも。大太鼓の振動が身体にぶつかってくる。男声合唱がぐるっと前に整列。

指揮台に向かう岩城宏之さんを間近に見ることになったのだが、ちょっとやつれた様子にびっくりしてしまった。しかし、指揮ぶりは実に的確で自信にあふれたものであった。最終楽章など、何というか粘着力のある演奏で、エネルギーがわき出る感じでした。

《涅槃交響曲》はオーケストラと声明が互いにサンドイッチになった構造。第1楽章の冒頭から神秘的な響きに引き込まれる。鐘の音も不思議だ。混沌のなかから何かが形を表すイメージを感じる。Vnソロがきらめき、溶岩流の中から泡立つように打楽器が続く。ベートーヴェンの交響曲第9番の第1楽章を思い出させる。

第2、3オケを別に配置している。サントリーホールならではの空間と良くマッチしている。CD録音では味わえないもの。中間楽章は、キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」を思い出しました。最終楽章は、怒濤のような大きなうねり、力強い生命力があふれてくるようだ。少しも抹香臭くない、東フィルも合奏力を発揮してエネルギーを浴びるような演奏であった。

黛敏郎 29歳の作品とのこと。そういえば、ストラヴィンスキーが《春の祭典》を作曲したのも31歳だったか。モーツァルトなどの超天才は別にして、30代での傑作は作曲家の創造力の絶頂期をきわめるのであろうか。これらの傑作を凌ぐ作品が後に続かない。

プログラムにあった岩城さんのメッセージを紹介しておこう。《涅槃交響曲》の初演指揮者としての共感にあふれている。「……日本は現在、世界で最も多くの優れた作曲家たちを、持っている国である。西洋音楽を取り入れた、百有余年の全ての歴史の中で、この隆盛は、第二次世界大戦後の黛敏郎の登場なしには、考えられない」「世の中は、偉大な作曲家『黛敏郎』を、忘れかけているのではないか。一晩どっぷり『黛敏郎』を聴いて頂きたい」と。次の機会には、オケの正面からじっくり聞きたいと思ったのであった。



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