■ 『内部監査で、不祥事をなくせるか』 SOX法へも「性弱説」で取り組もう (2006.9.17)

前作『内部監査人室』では、現場に密着した様々な監査ノウハウが開陳された。本書はその続編のコラム集であるが、底流となるテーマは「不祥事」だ。著者の結論は、内部監査に「不祥事をなくすことを期待されても無理」というもの。「性弱説」による限界があるという。

人間は弱いもの、だから不祥事が起きる。これが著者が言うところの「性弱説」である。人間の持つ「性(さが)」には弱さ――間違う(忘れる)、楽する(手抜きや、自分に都合の良い解釈)、得する(得を優先し、不利は無視する)、媚びる(認められたい)、魔が差す(あの男が…と)――がある。

いま、企業会計の分野では、先頃(06/6月)成立した金融商品取引法を受け日本版SOX法への対応が焦眉の急である。決算調書の信頼度を上げるために、内部統制制度の確立が求められているのだ。

企業組織では、責任者(社長!)が全従業員を直接監視することはとてもできない。不祥事を防止し発見する仕組みを構築・運営する義務が責任者に課せられている。さらに業務の分担や管理体制の整備が必要。これが内部統制制度である。

この制度が「きちんと組織の末端まで浸透し、実行されているか」、制度に「不備はないか、改善すべき点はないか」を監視することが求められる。このための仕掛けが内部監査で、責任者が職務を完遂するための活動でもある。

内部統制制度の構築は性悪説、運用は性善説であるが、内部監査は性弱説で考えなければならない、と著者は主張する。

制度の構築には、最悪の状況を想定しなくてはならない――性悪説のアプローチが必要。一方、制度の運営には、関係者がそれらの制度を守るという相互の信頼が前提になる――性善説。しかし、この信頼が、人間の弱さによって崩れることがある――性弱説。このような崩れ(弱さ)が顕在化していないかを検証するのが内部監査になるわけだ。

内部監査は組織にとってなくてはならないものである。(1) 不祥事の芽を取り除くこと。また万一実行されたとしても早期に発見して対処できる。(2) 不祥事の実行を躊躇させ、発生を減らすことができる。


◆『内部監査で、不祥事をなくせるか』 阿久澤榮夫著、文芸社刊、2006/8


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