■ 柳田邦男 『人間の事実』 ノンフィクション1万冊の重み (2002.8.13)

日本が経済大国となって急速に変わり始めた1970年代以降のほぼ四半世紀に出版されたノンフィクションのドキュメントやルポルタージュなどに映し出された世界をとおして、変貌の実相を総覧している。読んだ本が1万冊以上、採録された作品1600冊、作家800人余とのこと。巻末の、著者名索引と書名索引が二段組みで33ページを占めている。文庫本で上下2巻。単行本は1997年の刊行。


2巻にわたる目次を抜き出してみよう。ここには柳田邦男の、個人→日本人→社会→国家へと向かう視点の広がりがある。(1)自分の死を創る時代 (2)病気というパッセージ (3)障害、そして「第三の日本人」への道 (4)病む社会の"人間の物語" (5)現代人のパッション (6)生き甲斐が揺れ動く時代 (7)権力の暗部を照射する眼 (8)技術社会の影と再生の道 (9)戦争の記録の新しい潮流 (10)女たちの時空の変容 (11)男たちは何を書くか (12)国際化による国家の中和化

「現代人のパッション」では、佐野眞一著『遠い「山びこ」 無着成恭と教え子たちの40年』(文藝春秋、1992年)を人間の絆の検証という意図に応えてくれる力作と評している。佐野眞一は、無着成恭と43人の教え子たちの人生を綿密にたどり、『山びこ学校』にかかわった多くの関係者の証言を収集し、それらを戦後日本の社会史・農村史・教育史のなかで検証した。『山びこ学校』に結晶した無着流教育をただ礼賛するだけでなく、そこに欠落していたもの、失敗だったというべき部分、にまで言及していると。

巻末の井田真木子さん(2001年没)との対談で、立花隆に言及している。重要なポイントは、彼は、スーパースターであり、またスーパースターにしか興味がないということ。『田中角栄研究』も日本の国を左右した首相である田中角栄の実像を知りたい。『宇宙からの帰還』でも、常人でない、月世界まで行った人を知りたい。あるいは脳死や臨死体験を知りたい。自分がノンフィクションのスーパースターだから、対象も同じ山頂の高さ、8800メートルの高さを持った人じゃないと興味がない。世の中もそれを期待している。


◆(1) 『人間の事実T 生きがいを求めて』 (2) 『人間の事実U 転機に立つ日本人』 柳田邦男著、文春文庫、2001/9


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