■ 『コンピュータの名著・古典100冊』 コンピュータを読み解くためのブックガイド (2003.12.16)


この種のブック・ガイダンスであれば、インターネットの独壇場である。ハイパーリンクで自由に関連箇所を参照できるし、検索エンジンを利用することもできる。ネット書店のサービスも充実している。しかし、この本のような印刷媒体をぱらぱらとめくって目に留まったページを拾い読みするのも楽しい。

本書には、コンピュータの全分野にわたって100冊が挙げられている。分類は、歴史、人物・企業、ドキュメント、思想、数学・アルゴリズム、コンピュータサイエンス、アーキテクチャ/OS、コンパイラ/言語、プログラミング、ソフトウェア開発、データベース/ネットワークの11である。

選出は、コンピュータ名著読書推進委員会と称するメンバがあたっている。委員長は元東大教授の石田晴久氏。選定基準は、重要なテーマにつき適切な書き方がしてあるもの、古典的なもの、10年ぐらい経っても古くならないもの、とある。とにかく幅広く選定されているのに驚く。松岡正剛の『情報の歴史』とか、西和彦の推薦する『心の社会』もある。確かにダイクストラの著した『構造化プログラミング』はプログラミングの歴史を変えた古典であろう。

古典には版元品切れがかなりある。また発行日付が古く入手も難しいかも。コンピュータ本は、ブックオフのような一般古書店では冷遇されているので、100円均一の棚にこの手の本がかなり紛れている。古本屋を探す楽しみが増えましたね。

それぞれの本の紹介は、ていねいに要旨を伝えている。映画の予告編のように「読むべし」と絶叫するだけではない。例えば、『誰のためのデザイン?』を見てみよう。

「よいヒューマンインターフェイスでは、システムや物を介して、設計者の想定するメンタルモデルとユーザーのメンタルモデルが整合している。そのためには、インターフェイスが理解しやすく使いやすい必要がある。メンタルモデルとは、人の頭の中で自分と他者や環境、物を認識する方法」とある。
この本のキーワードと考えられる「メンタルモデル」をきちんと抽出・説明している。単に「面白い、興味深い」との一言で終わりにしていない。


◆『コンピュータの名著・古典100冊』 東京大学名誉教授 石田晴久編・著、インプレス、2003/11

◆本書のホームページがあります → こちら


■ 『西和彦 ITの未来を読む 365冊+α』 ITの本質は時間の短縮 (2001.5.21)


世の中は「IT時代」とのことでかまびすしい。本屋の店先には「IT……」と銘打った本が山積みされている。オーソリティの推薦する本があればきちんと読んでみたいと思う。本書はそんな声にぴったりである。著者の西和彦は、かつてビル・ゲイツとタッグを組んだマイクロソフト創世期のキーマン。無類の読書家としても知られている。


冒頭の小論には「ITの未来を読む」で、ITはInformation Technology(情報技術)とも、Internet Technology(インターネット技術)とも称されるが、コンピュータとインターネットを含むシステムとしてのメディア技術全体のことを指すことであると考えるのが適当ではないだろうか、とある。また、短期予測として「超小型端末」がノートパソコンを駆逐するだろうと。

例えば、「『インターネット』を読む」では、もちろん最初に、第2世代インターネットの技術解説を取り上げているが、さらに著作権・プライバシーや遠隔教育まで幅広く目配りしている。本書はパソコン雑誌「PC21」に3年にわたって連載したものをまとめたもの。このインターネット関連の書評も1999年4月の執筆である。技術革新の早い現代では鮮度が低いかも知れない。

西の言葉。「インターネットの生きた最新の現状を、刺身でなく、缶詰にされたような単行本で学ぼうとするのはいささか本末転倒のような気もする」。「それでもなお紙の上の活字の持つ力は強い」。

巻末に「ITに対応するための51カ条」がある。第1条は、ITの本質は時間の短縮にあり。このあと示唆に富む条文が続く。

まず総論を抜き出してみよう

1 ITの本質は、時間の短縮にあり
2 情報を見るセンスを磨く必要
3 ITの仕事と休みの時間はできれば1対1
4 十分な糖分と酸素が必要
5 十分な水が必要
6 アルコールは飲むな
7 合法的なドーピングは活用するべきか?
8 眠くなったら即、寝るべき
9 定期的にスリム化の努力が必要

その他ランダムに引用してみると

・良い本に偶然出会う確率は少ない。先達に聞け
・一番大切なことは、書棚ではなくて、分類だ
・まとめて何冊も読んだ方が、効率的な読書ができる
・速く読む 読むスピードを速めたかったら、自分で文章を書くこと
・書評では、その本の良いところに光を当てて書く
・百科事典とパーソナルコピー機のペアを日常的に活用
・電子ハンドコピー、電子カメラを常用せよ
・情報、知識、知恵
・目的と手段
・仮説を作って、それを検証することの繰り返し


◆『西和彦 ITの未来を読む 365冊+α』 西和彦著、日経BP社、2001/4


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