■ 『ONE to ONEマーケティング』 苦情処理は、ワン・トゥ・ワン活動の一つ (2002.4.21)


マス・マーケティングの手法から、顧客一人ひとりと向かい合うワン・トゥ・ワン・マーケティングへ転換すべき、というのが本書のテーマである。原著の発刊は1993年であるから、インターネット真っ盛りの今日では情報テクノロジー面では陳腐化している部分があるのは否めない。しかし、日常生活では、なかなかつながらないサポートの電話にいらいらすることが多いし、ようやくつながっても、「それは相性の問題です」とか、木で鼻をくくったような回答を聞くばかりである。「苦情処理というのは、ワン・トゥ・ワン活動の一つである」、という主張に強く共感する。

マス・マーケティングとは、1960年代の終わりにアメリカで絶頂期であった手法である。「すべての人を対象に同じ商品を生産し、あらゆる店舗で販売し、幅広く宣伝を行い、共通のベネフィットを打ちだす」というもの。1970年代から80年代を通じて、セグメンテッド・マーケティングの開発へと時代は流れる。「より狭い範囲の顧客を確定し、その多様なセグメントごとに満足を得られるようにバラエティに富んだ製品を提供する」というもの。

ワン・トゥ・ワン・マーケティングでは、顧客「一人一人」を把握し、彼らと一対一で対話を続け、そして個別の仕様に従ってカスタマイズした製品・サービスを提供する。クォリティの高い製品、顧客満足に対する高い配慮、そして何千何百万人もの顧客とリレーションを個別に維持するために情報テクノロジーのサポートが必須である。

苦情処理というのは、ワン・トゥ・ワン活動の一つだという。苦情を言う顧客は、顧客シェア重視のマーケティングにとっては、まさにビジネス・チャンスという資産そのものなのである。不満を抱いた顧客は、平均9人にその不満を伝える。苦情をうまく処理できればこの9人を失わずにすむだけでなく、苦情を抱いた顧客自身との取引を増加させることも可能であると。そして、顧客自身がその苦情という問題に対して直接関与したと感じさせることが、大切であるという。このプロセスを通じて、お互いに納得のいく解決が見いだされれば、顧客はその結果に対して「関与」していると感じる。

苦情がまったくないことは、喜ぶべきことではない。気をつけるべきことは、苦情がこないことは、苦情がないことではないという点である。苦情は常に存在する。したがって、苦情がこないということは、それを申し出る手段が見つからないという可能性が高いのだ。


◆『ONE to ONEマーケティング――顧客リレーションシップ戦略――』ドン・ペパーズ、マーサ・ロジャーズ著、井関利明監訳、ベルシステムズ24訳、ダイヤモンド社、1995/3


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