大野和士 バーデン州立歌劇場カールスルーエで
ついに《指環》に挑戦
(音楽の友1999.1月号から)


カールスルーエのバーデン州立歌劇場の音楽総監督をつとめる大野和士が《ニーベルングの指環》のチクルス上演に初挑戦した。この劇場はモットル以来、ワーグナー上演をひとつの大きな柱としているだけに、大野にとってもこの連続上演は力量を問われる正念場となった。

そのうち筆者が見たのは第2回のチクルスの《ワルキューレ》(11月3日)、《ジークフリート》(11月15日)の2公演。《ワルキューレ》では歌手の一部に問題があり、それに足をひっぱられたところもあったが、全体としては彼が敬愛するサヴァリッシュの指揮を彷彿させるワーグナー演奏の伝統をしっかりとふまえた演奏だった。

この上演にはバイロイト音楽祭の総帥ヴォルフガング・ワーグナーも臨席し、終演後、盛んな拍手を送っていたのが印象的。めぼしい歌手がいなかっただけに彼の目的が大野を聴くことであったのは間違いないだろう。

《ジークフリート》ではヴォルフガング・ノイマン、リーズベト・バルスレフと歌手がグレード・アップしたこともあって見違えるばかりの充実した出来となり、なかでも第3幕ではワーグナーを聴く醍醐味を堪能させてくれた。

同時期のベルリンではティーレマンが《リング》に初挑戦し、この指揮者特有の濃厚な音楽づくりによって客席を大いに沸かせていた。オーケストラ、歌手の水準が違うため同列には語れないが、両者の演奏を聴き比べて感じたことは、個性の違いこそあっても決して甲乙付けられるものではないということである。

(取材・文=岡本稔)(音楽の友1999.1月号)




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