■ 立川志らく『全身落語家読本』〜落語は日本最高のエンタテインメント (2001.2.9)

本書の巻末には、「卒業試験 落語」と称するテストが付いていて自己採点ができる。例えば、「次のフレーズの落語タイトルを答えよ」とある。「自分を落っことしても金は落としません」、解答は火焔太鼓である。もう一つ、「次の3本の落語に関連する落語家の名前を挙げよ 黄金餅・風呂敷・火焔太鼓」、解答は古今亭志ん生である。この類の問題が50並んでいて合計100点満点。90点以上は落語の本質を判っている人、89〜50点は並の落語ファン。50点以下で落語ファンを名乗っていたら、インチキ、エセとなる。

得点は、わずか10数点であった。これでは並の落語ファン以下。本書を評する資格はあるのだろうか。著者は立川志らく。1963年生まれとのことで、37歳か。談志一門であることはわかるが、ラジオでもテレビでも未だ聞いたことがない。この点でも評者は失格かな。

内容は2部に分かれている。前半は、「現代落語論」と言ってもよいものか。標題を列記すると、「面白い落語と面白くない落語」、「落語はこう聞け、こう喋れ」、「落語は男の世界だ」、等々。それに「噺家論」。後半は、特殊講義「ネタ論」。192本を紹介。1本について700字前後を費やして、@あらすじ Aポイント B名人の個別論など。

著者の落語に対する思いれは強い。自ら落語への圧倒的情熱から"全身落語家"と名乗っているほどである。落語こそ最高のエンターテインメントという。落語のイメージを固定してしまった要因のひとつがテレビ番組の「笑点」であり、悪い方に固定した犯人としている。この番組が無くならない限り、若者の落語に対する偏見は続くとまで言い切る。そして、落語家自身がもっと主張を持てと言う。現代にアピールする人間像を演じろと。これだけ情報のあふれる時代にあって、何の創意工夫もなしに、教わったまんまに語っているとは!中途半端な新作落語も五十歩百歩。

リズムとメロディが心地良いのが上手い落語。リズムとは、人物がスムーズに、ご隠居さんから八五郎へと入れ替わること。自分のメロディを持つこと。さらに、登場人物をディフォルメすること。ディフォルメこそが現代で落語を演る最低条件。落語界にはさりげなくが美であるという意識があまりにも強すぎるのだ。逆に、現代ではリアリティはそれほど追求する必要はなく、それよりも演者の作品自体への印象、登場人物の人間らしさを、と主張する。)十分な現代感覚が落語家には必要。最後はオリジナリティの勝負

著者の主張は熱を持っている。新潮選書の枠を破った軽い文体ではあるが、落語のネタ案内書としても楽しい。


◆『全身落語家読本』立川志らく、新潮選書、新潮社、2000/9、ISBN4-10-600593-X、1300円、276P


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