■ 『ロゼッタストーン解読』 エジプトの鍵 ―― ヒエログリフ解読レース (2002.4.14)

18世紀末のヨーロッパはエジプト・ブームだったようだ。モーツァルト最後のオペラ《魔笛》 (1791年) も古代エジプトが舞台である。ナポレオンのエジプト遠征は足かけ2年にわたったが軍事的には失敗だったといわれる。このときフランスの学者150人を同行させ、大量の文書や絵画、遺物などをフランスに持ち帰った。1799年に発見された、高さがほぼ1メート、表面にヒエログリフが刻まれた、重さ1トン近い巨石が、いわゆるロゼッタストーンである。

ヒエログリフは、聖刻文字とも呼ばれる古代エジプトの絵文字。紀元前3千年以上も前から使われていた。エジプト人がギリシア文字を使うようになると、ヒエログリフは忘れられ、解読できる者もいなくなってしまった。ヨーロッパの学者がヒエログリフの解読に挑むのは17世紀以後のこと。そしてロゼッタストーンの発見がこの解読レースに火をつける。ロゼッタストーンの発見から22年、1822年にフランスのジャン=フランソワ・シャンポリオンが解読に成功する。

本書はこの「ヒエログリフ解読レース」をシャンポリオンの生涯を軸として描いたもの。興味深いエピソードもある。シャンポリオンは幼い頃からすぐれた視覚的記憶力をもち、これによって数千のヒエログリフの文字のなかから同じものを抜き出すことができたと。また兄弟愛の物語でもある。シャンポリオンには献身的な兄ジャック=ジョゼフがいた。12歳年上で父親のような存在であった。ライバルはシャンポリオンより17歳年上の英国人医師、トーマス・ヤング。

シャンポリオンが解読に成功したのは、ヒエログリフは表意文字であると同時に表音文字であることを、そしてヒエログリフのアルファベットを発見したこと。ヒエログリフは、象形文字、表意文字、そして表音文字の3種類の文字から成る。ある一つの文字がいくつかの機能を持ち、同じテキストや語句のなかで、同時に象形的、表意的、表音的になりうるのだ。

ヒエログリフの解読は、エジプトの初期の歴史を解明したばかりでなく、広大な地域にまたがる古代史の研究を大いに促進させたという。ファラオの巨大な彫像からミイラに巻かれた布にいたるまで。さまざまな文献には、想像をこえるような内容が記され、古代エジプト文化の驚くべき実態が明らかにされた。売買契約書、勘定書、公文書、収税簿、人口調査表、布告書、技術に関する論文、軍の指令書、王の一覧表、葬式の呪文と儀式、生者と死者への手紙、物語――ほとんどすべてが現代の社会にも存在するものばかりである。


◆『ロゼッタストーン解読』 レスリート・アドキンズ、ロイ・アドキンズ著、木原武一訳、新潮社、2002/3

◆創元社の「知の再発見」双書『古代エジプト探検史』(ジャン・ベルクテール著、吉村作治監修)は、図が豊富で楽しい本。アブ・シンベル大神殿の解体・移動工事の様子は興味津々。


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