■ 『質問する力』 大前研一 (2003.3.16)

「これから政府が国民を裏切るとしたら、その最大のものは年金である」と大前研一は云う。イラクや北朝鮮など世界情勢は不透明。株価は下落ひとすじ。年金制度も崩壊するのではないかという予感がある。国の年金はあてにしない人生設計をすべきだという。個人個人が、自らの人生を自分の頭で考え選択をしていくことが前提だと。

日本が急速に回復することはないだろう。効果的な回復の手だてを打っているとは思えないのだから。このようなとき、本書の提案は―― ひとり一人が、わからないこと、納得できないことを声に出して聞いてみる、真実は何かを問いつめる、そこから始めよう、と。今の日本人に足りないのは「質問する力」だという。政府や、マスコミの言うことを鵜呑みにするのではなく、まず自分の頭で考え、疑問点があればとことん追及し、自分で納得してから決断をすること。結婚、就職、持家、といった人生の重要事も自分で納得のいくまで調べ、考え、決断をすることだ。

質問するためには、その課題について、もちろん十分な基礎知識を備え持っていなければならないでしょう。情報収集能力、判断力も大切ですね。

「これって、どういうことなの?」、質問することから全てが始まる。たとえば証券アナリストの言うことを信じて株を買って損失を被ったのは、「質問する力」が足りなかったのだ。彼らの言葉を鵜呑みにする前に、「あの人はなんでそう言うのだろう」「あの人はどこから給料をもらっているのだろう」と自らに問いかけてみるべきだったのだ。

質問し、権威に挑戦する教育が大切である。何事に対しても「本当かな」という疑問を持ち、自分の頭で考えて見る習慣を身につけること。企業コンサルタントにしても、企業内部の実態がどうなっているのか、抱えている問題は何なのか、納得のゆくまで根ほり葉ほり質問して問題の所在を明らかにしてゆかねばならない。質問するのが仕事なのだ。よく聞く、よく質問する力は、すぐれた経営者の特徴でもある。

本質には日本人が論理に強くないことにあるか。論理よりも、言葉そのもののもつ語感とか情緒を重要視する傾向。あうんの呼吸で十分にコミュニケーションができていた、ということかな。現在の日本の危機的状況は、集団としての知的能力の欠如に由来しているのではないか、という深刻な懸念が大前研一にはある。

◆ 『質問する力』 大前研一著、文藝春秋、2003/3


■ 大前研一 『サラリーマン IT道場』 (2003.2.28)

ITバブルがはじけても、IT産業が崩壊したわけではない。21世紀初頭のリーディング産業はIT以外にありえないと。例によってテンションが高い。そして教育の役割を強調する。


これから先、日本がネットワーク社会で栄えていくためには、教育が3つのレベルで根本から変わらなければならない。第1に語学、第2にITリテラシー(情報技術能力)、第3に知的付加価値を生み出す頭脳(論理思考力と構想力)であると。

学校教育では、思考を深めることに専念すべきである。また、リーダシップやチームワークといった会社や社会などの構成員としては決定的に重要なことを教えていかなくてはならない。さらにインターネットが最も苦手とする直感力、構想力、創造性などを磨くことに多くの時間が割かれるべきであると。

IT時代、ボーダレス時代に対応できる社員教育が最重要課題だという認識が企業に高まってきた。逆に言えば、ITと財務と英語ができないビジネスピープルには、遠からずリストラの運命が待っていると。

◆ 『サラリーマンIT道場』大前研一著、小学館、2002/3


■ 大前研一の『企業参謀』は古典か? (2000.3.26)

今回紹介する大前研一の『新装版 企業参謀』(プレジデント社、1999)は、既刊の『企業参謀』正・続とプレジデント誌に寄稿した「先見術」を収録したものである。

大前研一が『企業参謀』を書いたのは25年前の32歳のとき、マッキンゼーに入社してまだ3年目の新人だった。実質的な処女作であったという。さすがに、文章にはやや生硬さが見られるが、「戦略を持て」と繰り返すパワフルな語り口は大前研一に変わりない。

『企業参謀』は今や古典だろうか。経営者の教科書であろう。もう一つの教科書として『ジャック・ウェルチのGE革命』(東洋経済新報社、1994)を忘れることができない。強烈な指導力をもったカリスマ経営者が目指すのは、『企業参謀』が指し示す目標地点と同じものと思われる。

T部が「戦略的思考とはなにか」で既刊の『企業参謀』そのままである。
戦略的思考入門、U企業における戦略的思考、と別れている。Vは戦略的思考法の国政への応用。Wは戦略的思考を阻害するもの。

最初に、T戦略的思考入門では「戦略的思考とは、事象を分析し組み立て攻勢に転じるやり方」、と説く。ものの本質に基づいてバラバラにしたうえでそれぞれの持つ意味あいを最も有利となるように組み立てる。本質をとらえる手法として、解決志向型の設問をすること。漫然とした改善策を拾うような設問でなく、解決策につながるような設問のしかたを常に訓練しすることが重要である。次に、成功の尺度を与えること、同業他社と比較するなどして売上高利益率とか総資産利益率を。

そして、U企業における戦略的思考では、企業における「中期経営戦略計画」の重要性を強調する。大体3年をメドとすること。立案・遂行にトップの主勢力を向けなければいけない。

中期経営戦略計画のステップ
(1)目標値の設定 現実的願望の定量化
(2)基本ケースの確立 説明変数の仮定
(3)原価低減改善ケースの算定
(4)市場・販売改善ケースの算定
(5)戦略的ギャップの算定
(6)戦略的代替案の摘出 抜本的戦略案←→リスクの発散
(7)代替案の評価・選定 定量的な評価による
(8)中期経営戦略実行計画 単に寄せ集めたのではダメ

製品系列のPPM(ポートフォリオ)管理を行うこと。

最後に、W戦略的思考を阻害するもの、では全編を貫く一般論として5つの戒め(参謀五戒)をまとめている。

参謀五戒
(1)「イフ」に対する本能的恐れを捨てよ(代替案を常に理解)
(2)完全主義を捨てよ(ほんの1枚上をタイミング良く)
(3)KFSに徹底的に挑戦せよ、常にKFSを忘れない(Key Factors for Success)
(4)制約条件に制約されるな 「何ができないか?」ではなく 「何ができるか?」と考える
(5)記憶に頼らず分析を(「分析力」と「概念をつくり出す力」)。

『企業参謀』が世に出てから既に四半世紀が経った。この本を教科書として育った世代は、今や日本経済界の中核を占めているはずである。そして、日本経済はまだまだ長い低迷から抜け出してはいない。歯がゆいもたつきぶりである。一方、韓国の1999年の国内総生産(GDP)成長率は10.7%だったとのこと。経済危機に直面した98年のマイナス6.7%から反転、87年以来の12年ぶりの高成長を記録している。劇的な急回復である。韓国の経営者の教科書は何なのであろうか。

◆大前研一著 『[新装版]企業参謀 戦略的思考とはなにか』プレジデント社、1999/11

◆ノエル・M・ティシー+ストラトフォード・シャーマン著『ジャック・ウェルチのGE革命』小林陽太郎監訳、小林規一訳、東洋経済新報社、1994/8


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