音楽界、3人のシュトラウスに沸く
(日経新聞・文化往来1999.2.22)から

今年は3人のシュトラウスの記念年だ。「ラデツキー行進曲」のヨハン・シュトラウス1世が没後150年、その息子のワルツ王ヨハン・シュトラウス2世が同100年、別家系のリヒャルト・シュトラウスが同50年だ。特にリヒャルトの評価の確定は、これからと言っていい。

大野和士指揮東京フィル、ハルトムート・ヴェルカー(バス)主演による歌劇「無口な女」の日本初演(演奏会形式、16日、東京・渋谷のオーチャードホール)は時宜を得た企画だった。騒音嫌いの偏屈な老人に一夜の茶番劇をしかけ、魅力的な人物に改造する喜劇。管弦楽の達人で、「ばらの騎士」「サロメ」などで知られる作曲家が70歳を超えて到達した自在な境地を感じさせる傑作だ。

このオペラはユダヤ系オーストリア人の作家シュテファン・ツヴァイクが台本を書いた。そのため1935年の初演は、ヒトラーの介入でわずか4回で打ち切り。欧米でもめったに上演されない理由は過去の不幸な経緯よりも、「ドイツ語の早口な会話劇に演奏至難の管弦楽が大編成でからむ」(大野)という劇音楽としての複雑さにあったのではないか。

東京フィルの演奏は、文学と音楽の高い次元での一致を実感させた。8月には同じコンビで「サロメ」に挑む。また今回、理髪師役を好演したバリトンの河野克典は5月6日、同じく没後50周年のプフィッツナーの作品と組み合わせたリサイタルを開く。知られざるリヒャルト・シュトラウスに触れる機会が増えそうだ。




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