■ 『事故は語る』 暗黙知は伝承されているか (2003.10.27)



十勝沖地震(03.9.26)で出光興産北海道製油所のナフサタンクが44時間にわたって炎上したのは記憶に新しい。その前には、新日鉄の名古屋でガスタンクの事故があった。なぜタンクの事故が頻発するのか。「失敗学」の畑村洋太郎・工学院大学教授によれば、「暗黙知」――その業界の人間なら誰でも持っている知恵――が企業のなかで伝わらなくなっているのが原因だという (朝日新聞03.10.18)

本書は、「日経メカニカル」1998年11月号〜2003年4月号に連載した「事故は語る」から厳選してまとめたもの。まさに畑中教授のいう「暗黙知」の伝承の問題が溢れている。対象として、自動車、航空機、鉄道、電子・機械、建築・土木、原子力と工学分野の多くをカバーする。合計で32の事故事例だ。専門誌の記事がベースとなっているだけに、記述は詳細で具体的である。また専門用語も注意深く抑えられているようで読みやすい。例えば、三菱自動車のトラックのリコール事故を読んでみる。

この事故は、スタータースイッチに挿し込んだキーが回ったまま戻らずに、スターターが焼損し発煙するというもの。エンジンが始動すると、通常であればキーは、ばねの力で元の位置に戻る構造だが、事故車ではキーがスタータ位置のまま戻らない。このため、始動回路に電流が流れっぱなしになりスターターが加熱し焼損する。

最初のクレームから、リコール対策までに4年もかかったとのこと。三菱自動車は当初、事故車のキーが複製の合鍵だったため、原因はユーザの使い方にあると誤判断していた。しかし、実はスタータースイッチ部に問題があったのだ。回転子のはめあい部分の仕上げが不十分であり、ダイカスト部にバリが一部残っていた。このため、ばねの力が殺がれキーが戻らなかったのである。

事故の遠因として、当時の工程変更があるという。合理化策の一環として作業時間の短縮を目指し、仕上げ工程を手やすり作業から、サンドペーパー作業に変更していた。このときの作業者に対する教育と、作業後の確認動作に対する指示が不十分だったことが、今回の不具合につながったと。

原因を追及する過程が実証的である。また間接要因として、工程変更を挙げたことにも説得力がある。終わりに、沢俊行 山梨大学 工学部助教授 (機械システム工学)の言葉をあげておこう。事故の多くが、危険因子の重畳あるいは知識不足によって起きているとのこと。そして、「事故の教訓化」として、情報公開のメリットに言及している。


◆『事故は語る 1998-2003』D&H日経メカニカル編集、日経BP社、2003/5


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