■ 『思考のレッスン』 本はバラバラに破って読め (2002.11.1)


ちょっと気取って書け」は、丸谷才一の『文章読本』で忘れられないキーワード。意表をつく警句、180度近くにもひねったレトリックは丸谷の得意技である。本書は既に刊行されている単行本の文庫化。6章のレッスン仕立てである。レッスン4〜6には、本を読むコツ、考えるコツ、そして書き方のコツと並ぶ。章をおって読めば、あの発想の秘密をつかめそうな気がするが。

ものを考えるには、本を読むことが最も大事なことである。本をどう選ぶか。これは、読みたい本を読むしかないのだと。本はバラバラに破って読めと言う。平気で本に書き込みするし、破るとのこと。1冊の本を読みやすいようにバラバラにするのだ。読むためのものなんだから、読みやすいように読めばいいと。凡人はここまで徹底できるかな?

考える上でまず大事なのは、問いかけ。いかに「良い問」を立てるか、ということ。「不思議だなあ」という気持ちから出た、かねがね持っている謎が大事。自分のなかに他者を作って、そのもう一人の自分に謎を突きつけて行くとよい。「当たり前なんだ」とか「昔からそうだったんだ」と納得してはいけない。

比較と分析」ということが非常に有効。ある主題なり対象なりの中で、特に自分が関心を抱いている要素にこだわって分析してみる。さらに、別のものと比較しながら分析すること。

そして、直感と想像力を使って仮説を立てること。仮説を立てるに当たっては、大胆であること。びくびく、おどおどしていてはダメ。多様なものの中に、ある共通する型を発見する能力、それが仮説を立てるコツだろう。型を発見したら、その型に対して名前をつけること。例えば、フロイトが、息子の母親に対する愛着を「オイディプス・コンプレックス」と名づけたように。名づけによって考えが整理されて、思考がさらに深まる。

思考は、文章の形で規定される。文章力がないと、考え方も精密さを欠く。大ざっぱになったり、センチメンタルになったり、論理が乱暴になったり。文章力と思考力はペアである。「対話的な気持ちで書く」というのが書き方のコツだと。自分の内部に甲乙2人がいて、いろんなことを語り合う。考えるときには対話的に考える、しかしそれを書くときには、普通の文章の書き方で書く。

書き出しに挨拶を書くな。書き始めたら、前へむかって着実に進め。中身が足りなかったら、考え直せ。そして、パッと終れ。


◆ 『思考のレッスン』 丸谷才一著、文春文庫、2002/10


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